まんたのイエーイ!

オードリーのまんざいたのしい2013@紀伊國屋ホール
オードリーが4年ぶりに単独をやるという。しかもタイトルが「まんざいたのしい」。これはもう、せっかく手に入れたオットの人を質に入れモニョモニョ(断言できない)行かなければいけない。ずっとずっと、夢にまで見ていたオードリーの単独をこの目に焼き付けなければ、かつてどん底の時期を彼らに救われたわたしのけじめがつけられないのではないかと、アタマのおかしな仰々しい覚悟を持ってわたしは紀伊國屋ホールに向かった。
公演は、とてもシンプルなものだった。漫才と幕間の映像、たったそれだけ。どのコンビでもやるような、いや、今となっては漫才コンビも単独となるとコントに挑戦したりするから、あくまでもタイトルに忠実な、彼らの主戦場で真正面から漫才を見せていく内容でした。ふたりが上下から出てくるだけで胸がはずむあの感じ、あれを違う漫才が始まるたびに飽きもせず味わって、わたしはカラダがふわふわと浮いているような気分でした。サンパチを挟んでふたりが立っているだけで泣けてくるこの気持ち、こんなの他のどのコンビを見ても感じたことはありません。少し前かがみにしゃべる若林、どっしりと鳩胸で構える春日、たまにうまいこと言う春日に不意打ちされてのけぞりながら笑う若林、噛んだことを指摘されて汗を拭きながら苦笑する春日、悪ふざけしはじめるふたり、お約束の「おまえそれ本気で言ってんのかという伝統芸、もうすべてが様式美と化していて、すごく気持ちの悪いことを言ってるのは重々承知の上で、結局最後に残るのは幸福感にほかならないのです。
春日に言ってほしい言葉をたくさん織り込むことでおなじみの若林のネタも、ステージの上でほんとうに楽しそうに伸びやかに漫才をしているふたりをみていると、めちゃくちゃ微笑ましい気分になって、これまでちょくちょく感じていたひねくれた気持ちがちっとも顔を出さないことに気づきました。春日のセリフはほぼ台本通りのはずなのに、春日自身から出ている言葉のように思えてしまったからです。
……ああ、言葉がうまく出てこないな。オードリーを語るとき、わたしはいつもこのもわっとした思考の雲を言葉にする方法がわからず、途方に暮れてしまいます。気持ちがいつも先走って、言葉が追いつかないのです。
ただ、あのときに似ている、と思いました。昔、バンプオブチキンロックインジャパンフェスのグラスステージ(いちばん大きなステージ)に初めて立ったときです。藤くんは麦わら帽子をかぶってステージにふらりと現れました。バンドはまだ今ほどカリスマ的ではなくて、でも天体観測で一気に火がついたあとだったので、ステージ前をたくさんのお客さんが埋め尽くしていました。
今よりもまだつたない演奏が始まって、青い空をバックにひたむきに音を鳴らす4人の姿を視界に収めたとき、突然こみ上げる気持ちがありました。なんというかけがえのなさを抱えたバンドなんだろうと。俺、こんな最強のやつらと昔からの幼なじみなんだぜ、全部わかりあえてるんだぜ。お互いがお互いを最強と認め合っているがゆえの、そして揺るがぬ絆と誇りゆえの自信が演奏にみなぎっていて、わたしは気がついたら涙ぐんでいたのです。
そのときと、おんなじ気持ちなんだ!!!(長い
ずっとなんで単独やらしてくんないんだと呪詛を吐き続けていましたが、4年という時を経た今こそ心に沁みる単独になったんじゃないかと、結果オーライなんじゃないかと満足しています。ふたりともすごく手応えを感じていたみたいだし、仕事のペースも落ち着きつつあるので、バナナマンみたいに恒例化してくれることを祈ります。毎回「まんざいたのしい」ってタイトルでいいよ!!
あと、幕間の映像も若林のパジェロと春日が戦うというキチガイじみた企画で最高でした。アタマがおかしいと思われるかもしれませんが、わたしはちゃんわかパジェロの大ファンであるため、こんな大画面でパジェロが!見れるなんて!と駆けださんばかりに狂喜しておりました。平静を保つのがしんどかったYO……。パジェロ(しかもちゃんわか運転)と戦って勝てると思っていた春日ってやっぱりすごい。トムとジェリーみたいでめちゃくちゃ面白かったです。
公演を終えて、エンディングでやたらボケまくる若林と律儀につっこむ春日。漫才ではずっとつっこみだから、ボケるのが楽しくてしょうがないらしいです。若林「たりないふたり、芸人交換日記、今回の単独を青春三部作って呼んでるの」春日「だっせえ」この「だっせえ」の言い方、ほんとうによかったな。笑いながら吐き捨てるところに幼なじみ感がにじみ出ていて心が踊りました。自分は客、客、出演だからなんかキリが悪い、どうせなら今回も客がよかったと言う春日に、「じゃあ来年俺一人芝居するわ。真っ白に塗って山海塾みたいに」と変な踊りをしてみせるご機嫌な若林。「昨日肩が痛くて整体行ったら、緊張でめちゃくちゃ凝ってますよって言われて。密着のカメラ入ってるから、袖とかで『俺、全然緊張してないよ』って言ってたのに!」ラジオばりに若林の饒舌が止まらなくて、もうわたしは目を細めるばかり。しあわせ粒子が充満して、ホール全体がピンク色になりそうだよ!
でもでも、マイナスポイントがひとつだけ。紀伊國屋ホールって全体の傾斜が緩やかだから、後列になればなるほど客が前のめりになりがちなんです。わたしの前の子がちょうど前のめらーだったから、わたしも必要以上に背筋を伸ばさなきゃいけなくて大変でした。ナマのオードリー!っていう浮足立ちも加わってか、他にも何人か前のめらーを発見したので、次回から違う会場でやってください。同じ紀伊國屋でもサザンシアターのほうが観やすいはず!
それ以外は気を散らすこともなく、それまでだるくて仕方なかったカラダもすっかりほぐれて、整体を受けたあとのようにほかほか気分で帰途についたのでした。混じりっけなしに楽しかった!って言えるこの感じ、ほんとうに清々しくてうれしいよ。まんざいたのしい!