ホロヴィッツとの対話

ホロヴィッツとの対話@パルコ劇場
作・演出:三谷幸喜
出演:渡辺謙段田安則和久井映見高泉淳子

世界の謙さんのお芝居をこんなに狭い空間で観られるという贅沢!
決して派手さはないけれど、心にしんしんと染み入るとても良質なお芝居でした。ウェルメイドってこういうことを言うんだろうな。
役者さんが全員達者な人ばかりなので安心して物語に身を委ねることができました。和久井映見のくるくる変わる表情がとってもチャーミングで、とてもじゃないけど初舞台だなんて信じられないよ!
老婦人が周囲に耳を貸さず独自の教育論を振りかざし始めるあたりから彼女の娘はもういないんだという予感が劇場に満たされる気配を感じ取って、胸の奥がきゅっと締め付けられるような気分になりました。頑固亭主の制止も受け流し、自分のプライドを守り現実から逃れるために必死で自分にとっての正論を振りかざす老婦人……。
三谷さんのお芝居はコメディからシリアスに向かっていく速度が一見緩やかであるように見えて、実は直滑降のようなスピード感で展開していくところがたまらなくスリリングで、わたしはいつも喜劇と悲劇は背中合わせであることを実感するのです。さっきまで偏屈な老人に振り回される調律師に爆笑していたのに、数分後には調律師の壮絶極まりない体験に涙している。そしてこれがあの311を経たからこそ書かれたのであろうことを思うと、ますます三谷さんという劇作家と同時代に生きているという幸せを噛み締めるのです。
最初謙さんはドッグフードを抱えて登場するんだけど、逝ってしまった三谷さんちのトビのこと、そしてトビの親の飼い主だった謙さんのことに思いを巡らして、しょっぱなから泣きそうになりました。こんなに愛あふれる脚本を書く三谷さんの側にもうトビがいないなんて、もうひとりぼっちだなんて、だからこそ三谷さんは過剰とも思える仕事量をこなしているのかもなあと、どんどん切なさが押し寄せてくるのでした。
謙さんはほんとうにほんとうに素晴らしいなあ。重い病気を患ったにもかかわらず、あっちの世界に連れていかなかった神様に深く感謝します。カーテンコールで前を行く妻の肩に手を乗せてルンルンではけていく謙さん。かわゆす謙さん。
次はO泉YOさんのドレッサー。ずいぶん遠くまで来てしまったなあO泉さん。チケット取れる気がしないけど、なんとかして会いに行きたいよ。