モテキ

この世には二種類の人間がいる。
モテキを観て屈託なくげらげら笑う人と、うまく笑えない人だ。
ただ純粋に感想を書くつもりが、生々しいわたしの恥部をご開帳するハメになりました。こんなのワールドワイドウェブに公開するつもりじゃなかった。海へ行くつもりじゃなかった。まとまりなくやたらだらだらと長文です。
水曜日、レディースデー、六本木ヒルズ、19時の回。ほぼ女子か、女子に連れてこられたであろう男子がちらほら。みんなおしゃれで、スタイルが良くて、最近流行りっぽいし笑えそうだからって理由で来たような女子ばっかりだ。サブカル的な興味で来た人なんてわたし含めて10人もいないよきっと!いつの間にか思考が幸世モードになっていることに自分ではまったく気づかないピヨ丸。
客席は9割方満席で、突発的にチケットを取ったわたしは前から4列目に座るはめに。こんなに前で映画観たことない。まさみたんと未來のえっちなキスシーンがドアップで迫ってくるじゃないか。困る。
客席はほどよく湧いていた。幸世がギクシャクするシーンやアニメっぽい動きをするところなんかはお嬢さんたちの笑い声が特によく響いた。そして、るみ子が振られて泣きながら幸世に追いすがるシーンでも。みんな、よく笑っていた。
わたしはちっとも笑えなかった。笑うどころか、痛くて痛くて、るみ子が追いすがれば追いすがるほど、涙が出てきて困った。笑い声にも追い打ちをかけられて、わたしは睨むようにスクリーンを見つめていた。「幸世くんの好きな音楽も漫画も好きになるから、神聖かまってちゃんも勉強するから、だから重いなんて言わないで」妖怪のように追いすがるるみ子はわたしだった。そんなに遠くない過去、傷つきまくったあの記憶を厳重に封印して海底深く沈めたはずなのに、そのワンシーンでそいつはいとも簡単に浮上してわたしの胸をぎりぎりと締め付けた。麻生さんほどきれいだったら人生は変わるだろう、重い女だとしてもある程度は救われるだろう。だけどわたしなんかその足元にも及ばないから、心の奥底で所詮これはフィクションだとはねつけたくなったけれど、振られたくないその一心でなんでも受け入れ、物わかりのよい女を演じ、相手の趣味を学ぼうとするるみ子に自分を重ねていた。重くない女になろうとすればするほど重くなるなんて事実を、るみ子は、わたしはちっとも知らなかった。どうすれば相手の気持ちをつなぎとめられるかわからずにもがいて、追いすがって、それが全部裏目に出て相手を遠ざける結果になった。
これを屈託なく笑える人は、きっと順風満帆な恋愛をしているんだろう。幸せですと胸を張って言えるんだろう。彼岸にいる人だ、と思った。いや、わたしのいる世界こそが彼岸なのかもしれないけれど。
ああ、わたしほんとにるみ子だったな。好きになったダメ男には好きな女がいて、その女には彼氏がいたんだった。すごいな。モテキって、まだわたし観ちゃいけない映画だったんじゃん。だから悪いけどもう二度と観たくないって思ったんだな!ちくしょう!気づいてしまった!(遅い
ちなみにるみ子がすみさんとホテルに行くとこも笑いが起きてたけど、わたしの心にはさらに楔が打ち込まれただよ…。そうなんだよ。そういう女はそうなんだよ。そして抱かれても虚しいだけなんだよ。しかも33という絶妙な年齢設定…!いっそひと思いに殺してくれえええ(エコー
幸世ほんとむかつく!とかそういうのはもうドラマ版から前提になってるのであんまり腹は立たなくて、むしろ女性陣の心情に注目して見てしまう。みゆきは完全にモテ女の理論で動いてて今思うとほんとにガッデムなんだけど(なぜってわたしが苦しめられた女と似てるから)、でも好きな男に相手にされないから、自分に好意を寄せる男にその気もないのに思わせぶりなことしちゃうってまあわからなくもないなあと思うのだった。そんで望んでいたはずの相手の男が嫁と別れるっていう現実を目の前にしても思いのほか喜べなくて、そんな気持ちにさせられた幸世から逃げたくなる気持ちも。だけどそれは客観的に見ればほんとに自己中だし最低だよなあ。でもそれが恋愛なんだよなって今ならわかる。ラストシーンの泥の中でキスするのはすごく映画っぽいし、ここで終わりなのー?って思ったけど、でもみゆきだってあんなことしといてたぶん結局彼氏と一緒に暮らすんだろう。幸世くんじゃ成長できないってやっぱり泣くんだろう。「成長できない」って言葉は確かにカチンとくるけど、女って自分より格上の人間と付き合うことで自分を伸ばしたいと思うとこあるからなあ。男が逆に自分より頭のいい女と付き合いたがらないのと一緒だよ。まあダメ男を母性本能で養うってタイプもいますけどね。
関係ないけど、もしわたしがまさみちゃんと同じクラスだったら友達になってるような気がするな。パーソナリティをよく知らないけど、でもそんな気がする。かわいかったなあまさみちゃん。ショートカットにして正解だよ。ちなみに今のわたしの待ち受けは、役を離れた未來とまさみちゃんのツーショット写真。これがまたかわいいんだ。
ナタリーや幸世の部屋が映ると、人物よりも小道具をすみずみまで眺めてしまう。そしてそのだいたいがわかる自分の、正真正銘サブカル具合に向き合わされて絶望する。冒頭のナタリーのシーンで編集部員のPCのディスプレイが映ってるんだけど、それが大久保佳代子劇団「村娘」の記事で思わず噴きだす。わたし観に行ったよこれ!「卑屈」はブスの原因っていう名言を輩出した舞台だよ!何度もちらちら映ってそのたびに苦笑するけれど、おそらくここにいるシャレオツ女子には100パー伝わってないだろうよ!サブカル女で悪うござんしたね!!(だからそれがブスの原因)でも裏を返せばそういうのがわかる人へのごほうびっていうふうにも考えられるよね。わかる人はわからない人の100倍楽しめる。普通の女子っておTENGA様(春日語)のこととか知ってるの?みゆきがテンガTシャツ着てるシーンとか笑えたのかな?「普通」がよくわからないからなんとも言えないけど、あそこは笑えて楽しかった。みゆきの部屋にandymoriのレコードが置いてあったのがぐっときたな。幸世のチャットモンチーのTシャツもとっても似合ってた。そして出てるの忘れてたからハラカミさんの登場に軽く鳥肌が立ったよ。最新で最後のハラカミさん。いい思い出になったかなハラカミさん。ちょい役も含めわかる人にとっては全体的に情報量が多すぎて、特にエンドロールにはたいへん苦労しました!目が足りなすぎて!幸世×SDPのブギーバックもちゃんと観たいのに(あれが撮影されたモテキナイトわたし行ってたよ!生で「幸世!抱いて!」コールができて大変至福だったよ)関係各社、各者の情報が多すぎてとてもじゃないけどついていけなかった。ダブルブッキングの名前があったけど、どこに関わってたんだろうか。
くるりの「東京」をバックに幸世が猛然となるシーン、それぞれがそれぞれの場所で生活を送っているシーン、すごくよかったな。これが生きていくってことなんだって、眩しい気持ちになったよ。ひどく傷ついて泣きわめいても、次の日には仕事に行ってお昼何食べようって考えてる。それが日常なんだよね。
あと、未來のダンスシーンで笑う人が結構いたのが衝撃だった。未來のダンスハアン…!ってなるのがわたしにとっては常識だったから。そこ笑うとこじゃないYO!もっと真剣に見ろYO!未來は踊る人という公式をもっと世の中に広めるはどうすればいいんだろう、と軽やかに舞う未來を見ながら漠然と思うピヨ丸でありました。
しかしこのプロモーションと髑髏城を同時にこなしていた未來ってつくづくすごいと思う。里依沙ちゃんとの絡み、案外少なくてさみしかったな。考えてみれば沙霧と天魔王なんだなーとたまに邪念がよぎりつつ。「女には期限がある」と幸世に諭すシーンでまた心にぐっと何か鋭いものが刺さりました。世の男に聞かせてやりたいな。男のほうが特に結婚に踏み切れないカップルとかで観に行ったら面白いのにと思う。彼氏がこれで察してくれるんだったらわたしならうれしく思うよ。でもそんだけ察しのいい男だったらもっと早く言ってるかな。わがんね(東北訛り)しかし里依沙ちゃんといいまさみといい、巨乳をちゃんとアイテムとして使う大根監督のエロ魂に感服です。
うまく笑えなかったけど、いろんなところがずきずき傷んだけど、おもしろい映画でした。作り手の愛があふれすぎていて幸せな映画だと思うとともに、その圧に気圧されてしまうようなところもあったけど。いろんな人に感想を聞いてみたくなったな。その人の経験や生き方によってまったく違う感想を抱くだろうから。金子ノブアキとかどう思うんだろうな。あの人こそ対極の世界に生きているような気がするけど。もうちょっとわたしのほとぼりが冷めたら、また観てみたいと思う。次はリア充っぽい客で満員の映画館じゃなくて、もうちょっと閑散とした暗がりの中で、思いっきり感情を爆発させながら。