芸人なんとか日記

芸人交換日記@東京グローブ座
作・演出:鈴木おさむ
出演:若林正恭田中圭/伊勢佳世

気持ちが乗っからずに中途半端な伏字にしてずっと呼んでたこのお芝居。RIJFと同じ日程にぶつけてこられて絶望してたんだけど、千秋楽ならなんとか帰ってこられる、でも当たるわけないしハズレたらすぱっと諦められるぜ!と思ってぴあのプレリザーブで申し込んだらA席が当たってしまったよ……見とけっていう神様の思し召しだね……。
なんとか感想書きましたけど、すごく冗長で情緒的(押韻)な長文になってしまいました。まあ感想だからいいんだけど、全体的にアタマも気持ちも悪い感じです。だだっこ風味です。ネタばれあります。
どう書けばいいものか、着地点が見えないまま書き始めています。
ずっとずっと、いろんな意味で胸がざわつきっぱなしの2時間半でした。3階1列目は多少身を乗り出さないとステージが見えない場所で、始終前傾姿勢を取っていたら体もちょっと痛くなって、ああ、痛いなあ、わたしはこれをどう捉えればいいんだろう、何を思えばいいんだろう、何を言えばいいんだろうってすっかりJAMな心境でグローブ座を後にしました。
思ったことを素直に書いていいんだろうか、まだちょっと躊躇しています。今までそんなこと1回も思ったことないのに。でも、書くよ。感じたことをそのまま残しておきたいから。
東京千秋楽、開演時間が近づくにつれ暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き、土砂降りの雨が降り始めました。雨男若林の気合いがただならぬ証拠です。お手柔らかに頼むよグローブ座にたどり着けないじゃないか!と思いながら、ひたちなか帰りのわたしは少しだるい体を持て余しながら新大久保に向かいました。ロビーに入ったら物販に並ぶ列、ポスター売り切れました、ポストカード予約のみ受け付けです、などの張り紙と「DVDの劇場先行予約受け付けてまーす」の声。なんか、すごい。お金がうなっている。
開演時間になり、客電が落ちてフジファブリックの「若者のすべて」がまるまる、フルでかかりました。昨日ひたちなかで志村のいないフジを見てきたばかりで、そして今日、この芝居でこんなにも簡単に「若者のすべて」がかかってしまった現実に、少し面喰いました。今、フジを鳴らすことはどうしても意味を持ってしまうし、もちろんそれを踏まえたうえでさらに芝居に意味を持たせたかったのかもしれないけれど、この後、劇中で「若者のすべて」はアレンジを変えて何回もかかり、いわゆる「いいシーン」でもかかり、わたしはその安易な演出方法に、なんだか勝手に少し傷つけられたような気持ちになったのです。そしてスクリーンにフライヤーの画像が映し出され、「芸人交換日記」という手描きのタイトルが出るという、演劇ではちょっと見たことのないようなオープニング。やっぱりテレビの人なんだなあと思いました。
舞台には田中と甲本の部屋、そしてその境目にポスト。舞台後方の段を上がったところにサンパチマイクが置いてあって、その左脇にカウンター、右脇に病室っぽいセット。そこを、3人の出演者が動き回ります。なんだろ、今までこんな書き方したことないのに。どう書いていいのかわからなすぎてわたしちょっと緊張している……。
芸人交換日記は、芸歴11年の売れないお笑いコンビが売れるために一念発起、コンビ間で交換日記をして思いをぶつけあうお話。それを俳優の田中圭くんと、作中のイエローハーツ同様ずっとくすぶり続け、「自分のことを書かれてるのかと思った」と語る若林が演じるわけです。ふたりとも忙しいから稽古はいつも深夜から朝方にかけて。台本に触発された若林は毎週ラジオで昔語りをし、売れない頃乗ってた原付で生活してあの時の気持ちを思い出そうとするなどかなり入れ込んでがんばっていました。こんなことあったよね、と話す若林に「あー、そうだったっけか」と忘れていることもしばしば、毎週のようにしつこく「ねえ芸人交換日記読んだ?」と若林が訊くも「いやまだ、時間ができたら一気に読みたいからね」とのらりくらりとかわす春日。本音を話したがらない春日は突っ込まれるのがイヤでそう言ってるだけで絶対読んでるだろうとわたしは踏んでるわけですけど、ちゃんと春日は観に来るのかというのがこの芝居のもうひとつの注目すべき点なわけでありまして。
舞台は、お互い日記に書いたことを黄色いノートを交換しあっては言いあうという方式で進んでいくのだけれど、圭くん演じる甲本は借金持ちで女癖があんまりよくなくて働きもせず彼女の家で暮らすというヒモなんだけど、すごく明るくてまっすぐ。若林演じる田中は引きこもりがちでねちねちした性格で、最初は交換日記にも否定的で冷めてる感じだったけどだんだん漫才に対して情熱的になっていく。若林はものすごくパーソナルが近い役だから全然違和感がなくすごくナチュラルで案外すっと観れたんだけど、驚いたのは圭くん。すっごく上手い!!舞台で観たのは「裏切りの街」以来であのときもその達者っぷりに舌を巻いたけど、こんなにも上手い役者さんなんだなあ……なんか、申し訳ないよ……こんな膨大な量のセリフを早口でテンション高くまくし立てて、ダメ人間なんだけどチャーミングで愛される甲本をいきいきと演じていたよ。超過密スケジュールの中こんなクオリティに仕上げてくれて……本当にありがとう……わたしは一体何様なんだろうね……。言葉は悪いけどむかいりの廉価版みたいな使われ方をしているのがどうしても解せなくて、わたしはもっといい作品に出てほしいって心から思っているから、これが何かのステップになればいいと祈るような気持ちで舞台を見つめてしまいました。あと、「圭くんがシアターDってしゃべった!」っていう謎の感動に襲われたり。
劇中の田中はまんま若林といってもいいくらいで、猫背でもちゃもちゃとしゃべる感じ。途中で漫才のシーン(といってもさわりだけ)が何回か挟まるんだけど、マイク挟んで「はいどうもー」って言うと途端にスイッチが切り替わってすごくいきいきするんです。それがすごくぐっと来て、ああ、この人漫才師なんだ、漫才上手なんだって当たり前のことを思ってしまった。それで本来のコンビの漫才が見てえええってぐおおとなるわけですよ。なってしまうわけですよ。だってオードリーはまだ今年3回しか客前で漫才やってないから!わたしはそのうちの1回しか見てないから!
交換日記でイエローハーツの絆が深まり、M-1的な大会に出ることになってふたりはスーツ姿に着替えるんだけど、舞台の両端でネクタイをそれぞれが締めるシーンがあって。昔はネクタイ締めるの下手だったんだよな、ああ、こうやってまさに締めてるところを生で見るの初めてだな、ていうか、スーツ姿見るの久しぶりだなって、いろんな思いが降り積もっていくわけです。ぬおお。もう、どんどんフィクションとノンフィクションがないまぜになっていく。
わたしはがっつりお笑いを観るようになったのはわりと最近のことで、もちろん売れてテレビに出られるのはほんの一握りの人たちという浅い知識はあったけれど、実際の売れないエピソードを知っているのはオードリーぐらいしかいません。だから若林がこれを演じることによってそれはもうフィクションではなくなり、彼が泣きながら何度も叫ぶ「甲本、おまえと漫才してえよう」という言葉はリアルな相方への呼びかけにしか聞こえなくなってしまうんです。体育座りで独白していた彼は、感情があふれすぎたのか手で涙を拭い、やがてはあぐらをかいて泣いていました。会場は涙の海に溺れてしまったように、あちこちから盛大なすすり泣きが聞こえます。ああ、みんなすごい泣いてる。別の意味で泣きたい気持ちにはなったけど、わたしは全然泣けなかったよ。こんなにみんなが泣いてる劇場初めてだ。ハナをすすりあげる音でセリフが聞こえないよ。なあにこれ。わたしはどんな気持ちで舞台の真ん中で「漫才してえよ」って泣く若林を観ればいいの。
ひとりよがりな感想になってしまうけれど、「売れるってこんなにきついと思わなかった」というセリフを若林に言わせてしまうのは、ひどく残酷なことだと思いました。ラジオで「最近酒飲まないといろいろ考えちゃうから毎晩家で飲んでるのよ」って笑いながら言ってた言葉を思い出して、ただただ、胸がつぶれそうになります。「売れる」状態に持っていった大人たちがまたこうして彼の気持ちを足がかりにしてお金を稼いでいく。それはたぶん、ビジネスとしては当たり前のことで、そこにリアルがあるからこそよりビッグマネーになるのもわかるんです。でもやっぱり気持ちがついていかないんだよ。だから素直に泣けないんだ。もういい、早く終わってとしか思えなくなってしまったんだ。
物語は夢を諦めて家族を守るために堅実に働くことを選んだ甲本がガンにかかって死んでしまい、ラストシーンはふたりがリフターで上がってきて天国漫才をするところで終わるんだけど、わー!ふたりとも近づいてきた!ジャニーズみたい!っていう的外れな興奮はあれど、わたしはその結末に全然納得がいっていないよ。どうして相方を殺す必要があったんだろう。夢を諦めてそのうえ不治の病にかかるなんて、なにひとつ報われない物語の運びはちっとも好きじゃない。わたしは断腸の思いで別の道を選んだけれど、それでも生きていくっていうラストにしてほしかった。物語なんだから、夢を諦めた人にも希望の残るラストにしてほしかったんだよ。
そういえば、フジはデビューのとき志村以外結成当時のメンバーがいなかったんだよなあ。
通勤の途中にずっとフジを聴いていたら、ふいにそんなことを思いました。
お笑いも、音楽も、有名になるのは同じように大変なことです。わたしは昔よくインディーズバンドのライブを観に行っていたから、デビューの夢を掴むことなく消えていったバンドをいくつも知っています。デビューしても今までと全然違う音になって、数字が出なかったからと使い捨てみたいにすぐ契約を切られて解散したバンドも、デビューが決まって海外レコーディングもしたのに、デビュー自体が消えて解散したバンドも知っています。大好きだったのにあまりにも煙のように一瞬で消えてなくなっちゃったから、悲しむひまもありませんでした。
諦めたはずのあのバンドたちへの情熱がよみがえってきて、またひとりで少しつらくなったりして。もうあの小箱には鍵かけてたんすのいちばん奥にしまったんだから、平気でべたべたさわらんとって!ほっといてよ!
自分の体験を踏まえたうえじゃなくて、聞き書きなのがいやなのかな。人の痛みで金稼いでんじゃねえよって思っちゃうのかな。でもものを作る人はそんなの普通にやってることなのに。なんだろう。どうしてこんなに拒否反応が出てしまうのか、自分でもわかりません。若林にそんなこと演じさせんな、大事な青春の小箱開けさせんな!っていう単純な憤りなのかもな。あとは、芝居やってるひまあったら単独やらせろよっていう不満。おさむは悪くない。たぶん、悪くないと思います。よくわからないけど。
リフターの上で、明るいライト浴びながら漫才する若林、とってもかっこよかったです。こんなかりそめの世界の中じゃなくて、やたら鳩胸の人を左に従えて、もっといきいきとつっこむ若林が見たいよ。ネタ中に相方のしぐさで普通にふきだしちゃう若林が見たいよ。
はっ
本人もファンも渇望してるのにちっとも漫才やらせないっていうのは、この舞台にフラストレーションをぶつけてリアルな芝居を引き出そうっていう事務所側の作戦なのか!?わざとなのか!?そんでこの芝居によってまた限界寸前まで渇望が膨らんだところに単独をやらせてすごい爆発力のある漫才にさせようって魂胆なのか!?そうだ!きっとそうに違いない!(むなしい
以下、芝居の覚え書きです。

  • イエローハーツが3回戦を突破してふたりが有頂天になるシーン、ラップ風にやり取りしてて笑ったなあ。前日までは普通だったらしいから、ちょっと余裕出てきてお遊びしたのかも。かわいかった。
  • 若林長台詞すごいがんばってて、よくこんな長いの覚えたなって思ったんですけど、とつとつと台詞を言っている最中に雷鳴が轟きました。気合いが、気合いがすごいよ!!あとから知ったんだけど、この日の昼公演に春日来てたんだって。よかったねえ若林!そしてその気合いに納得だよ!楽屋挨拶に来てたみたいだけど、どんな話したんだろうねえ。想像するだけでご飯がすすむくんだよ!ぽわわわわわ…
  • 最後の漫才でリフターが上がってきたのを見た瞬間、バヤシちゃんまたIPPONグランプリ出ておくれよ…!て思った
  • ちょうかっこよく堂々とした漫才シーンを演じて幕が下りたのに、カテコになると突然おどおどと目が泳いで挙動不審になる若林に安心のクオリティを感じました。

カテコ

  • 1回目:普通にお辞儀
  • 2回目:若林、慣れない手つきで右の客席へ手を上げてお辞儀、左の客席へ手を上げてお辞儀、最後は正面に向かってお辞儀
  • 3回目:さっきの若林があまりにぎこちなかったからか圭くんが右左正面をやる。慣れてる!最後は千秋楽ってこともあって演者たちも拍手
  • まさかの4回目:スタオベ……。背広脱いだ若林がひとりで出てくる。途中振り返って誰もついてこないことに動揺し、あとから圭くんが手でごめんごめんしながら登場。若林、正面に手をざーっと広げてお辞儀。ちなみにわたくし立ち上がらずに前の手すりに腕をかけながら顔の脇で拍手してたら春日拍手みたいになっちゃって勝手ににやにやするという気持ち悪い事態発生
  • 帰り道、わたしたちのうしろを今田さんがスタッフ&後輩?と一緒に歩いていました。おっきい声で「俺なんか30の頃は…」ってしゃべっててちょっとほっこり。あとロビーに白井晃さんがいてびっくりした!あとから圭くん出演の「偶然の音楽」の演出家だったことを知ったけど、最初何つながりかわからなくて混乱したよ。客席で隣どうしで観てたくじら&ダブルネームのジョーは、とっても感慨深そうでした。

冒頭のJAMの話に戻りますけど、その歌詞の続きは「こんな夜は〜会いたくて〜会いたくて〜きみに〜会いたくて〜」なので、帰ってからドリさんの動画を観てはため息をつくというプレイをしていました。はあせつない。
いやしかし内容と演出はともかくキャストはみなさん大健闘でした。きっと春日もバヤシちゃんのことほめてあげたことでしょう。これが少しでも芸に還元されるといいなあ。早くみたいです、オードリーの漫才。