We are BUSTERS!!!


the pillows “HORN AGAIN TOUR”@AX
震災が起きてからはじめての音楽ライブ。日常を取り戻す最初の音楽がピロウズであることがほんとうにうれしくて頼もしくて、その日の朝はHorn againツアーだからそれをかけるのが普通なんだけど、とっさにあれが聴きたい、今わたしの耳にあの歌はどう響くだろう、そう思って違う曲を選んだ。
「震災後初のライブがピロウズでとても頼もしい。No Surrenderの「どんなに悲しくても生き延びてまた会おう」の響き方が震災前と後でこんなにも変わってしまうなんて」
 自分の中に秘めておけなくて、思わずついったーに書き込んだ。ピロウズを見て、音楽を聴いて、わたしは泣くだろうか。どんなふうにこみあげてくるんだろう。そう思いながらAXに向かった。
びっくりするぐらい普段通りのライブだった。冒頭の「元気だったか?俺たちは元気だぜ」というひとことにアニキ!ってなったけど、あとはほんとうにレコ発ツアーらしいセットリストで、しかもMCでは
さわお「20年以上音楽をやってるけど、まだまだ音楽の可能性を教えてくれるような出会いがあって、最近注目してるのは…」
固唾をのむ会場
さわお「♪たーのしーい仲間がーぽぽぽぽーん」(振りつき)
どっ
さわお「歌詞にオチとかつけなくていいのか!ってびっくりした。ぽぽぽぽーんて!」
さわおも!さわおもか!最近お笑いの現場しか入ってないけど、やれぽぽぽぽーんウザいだのぽぽぽぽーん大喜利だのとにかくその話ばっかりなんだもん!一億総ぽぽぽぽーん現象……。しかしさわおの「たーのしーい仲間がー」の部分の浮遊感再現っぷりに、さすがミュージシャン!とわけのわからない感動を覚える始末。鈴木淳が「ぽぽぽぽぽぽー」っておざなりに言ったら「ぽが多い!ぽぽぽぽーん!」とすかさず訂正するし、ぴーちゃんは「うちのぽんぽこは後ろにいます」しんちゃん「どうも、ドラムのタヌキです」さわお「世界一ドラムのうまいタヌキだぜ」とひとしきりぽぽぽぽんトーク。「“思いは見えなくても思いやりは見える”ってあのナレーション、感情こめすぎて逆に共感できないと思うのはわたしだけでしょうか!」さわお「妊婦さんに席譲ってる女の人は何気ない表情してるのに、男子高校生はいいことしてドヤ顔してるのがなんか腹立つんだよね」ACトークに花咲かせまくり!
「なにやっても不謹慎って言われるけど、俺たちはそんなに影響力のあるバンドじゃないから何言われても平気」「もともとパーソナルな歌詞しか書けないし今までもそうだったけど、今回のアルバムはその中でもよりパーソナルなものが集まったものだと思っている。それなのにこんなにたくさんの人に集まってもらえてとてもうれしい。ありがとう」ああ、びっくりするぐらいいつも通りだ、わたしはいったい何を期待していたんだろう。こんなときにピロウズは何を聴かせてくれるんだろうとわくわくしていた自分を恥ずかしく思った。そういう状況に勝手に浸って、勝手に求めて、勝手に癒されようなんて卑しいにもほどがある。ああ、わたしなんて消えてなくなればいいのにな。
そう身をちぢこめていたらリトルバスターズが鳴った。これまでのセットリストにはないはずの曲だった。感情が追いつかなくて、ただいつもどおりに盛り上がった。終わってからなんだかうれしくなって、自分が勇気づけられていることに気付いた。それでいいんだと思った。
1回目のアンコールが終わってメンバー3人がはけ、さわおがひとりマイクに向かった。ツアーが始まるまで気分が下がっていて、でも幕が開いたらとてもいいライブになって各地で曲も順調に作れたんだけど、震災が起きてから全然曲が作れなくなってしまった。自分のパーソナルな歌なんか作ってる場合じゃない、テレビを見れば気が滅入るし……でもやっとこないだから曲が作れて、今日のリハで合わせることもできた。どんどん曲が生まれていくと思うから、楽しみにしててほしい。
自分をあれだけ掘り下げた歌を書くんだから、今回の一件で彼の心がどれほどの濁流に呑まれたかわからない。どう振る舞うか、どう歌うか、精一杯悩んだに違いない。でもこうやってフラットな言葉をさらりと口に出せるようになるまでさまざまな逡巡があったはずなのに、こうしていつもと変わらない振る舞いをしてくれたことがなによりの喜びだと、わたしはやっと実感したのだ。
最終日でない限り1回のアンコールで終わるはずだけど、それでも手拍子は鳴り止まなかった。予感があって、わたしたちはずっと立ちつくした。そうしたらやがて照明がついて、さわおがいつもより念を入れて最前列の客と握手を交わし、アンコールサンキューと言ってギターを手に取った。「1,2,3,4,5,6,7,8!」突然のことに、わたしは最初なんの曲だか把握できなかった。
No Surrenderだった。
わたしがいちばん聴きたかった歌は、ピロウズが届けたい歌だった。言葉にならない気持ちで必死でステージを見つめた。「生き延びてまた会おう」と強く心の中で思った。わたしたちは運よく生きているんだから。
信じられない気持ちでふわふわしながらAXを出た。着ぐるみバスターくんがいた。初めて会えた!まだ人だかりができていなかったから、とっさに携帯でぱしゃぱしゃ撮った。一生懸命手を振ってくれたけど、震えているようにしか見えなかった。ひとしきり撮って後ろを向いたらすごい人だかりができていた。みんな笑顔だった。音楽の力ってこういうことだと思った。みんなが早く、ひとり残らず笑顔になれますように。