虚業

永野宗典不条理劇場「虚業」@リトルモア地下
作・演出・出演:永野宗典
出演:加藤啓/池浦さだ夢
http://www.europe-kikaku.com/projects/absurd/kyogyo.htm

突然、久しぶりに加藤啓くんが見たくなってチケットを取った。永野くんが作演というのも興味深かった。プータロらしく平日マチネでひとり、原宿をてくてく。たどり着いた地下の空間で、わたしは不思議な体験をした。
虚業とは−「実業」の対義語。大衆を騙くらかす胡散臭い事業。「土地ころがし」や「ねずみ講」など、具体的価値を生み出すことのない、実体なき事業を指す。皮肉やあてこすりの意味で使う罵倒語の類。金融業やサービス業もこう称されることがあるが、特定の事業を指す言葉ではなく、使用される範囲に明確な線引きはない。
役者の虚と実が入り乱れ、どこまでがフィクションでどこからがノンフィクションなのかわからないまま物語は進んでいく。演劇は虚業だと、人生の何の役にも立たないイカサマ商売だといい、与えられた自分の役柄が何なのかわからないままその場所に放り込まれ、どんどんその役が場面に応じて変化していく。どこまでが自分の言葉で、どこからが台本にあった言葉なのか。そもそも果たしてこれは演劇なんだろうか。わたしたちは無意識下で巧みに自分の役柄を切り替え、ときにはその役柄を演じようと必死になる。自分の役に浸ってまるでドラマのようなセリフを口にし、あとからあれは全部台本通りの言葉だったのではないかとぼんやりと思い返す。誰が脚本家なのかはわからない、でもわたしたちは娘、部下、同級生、恋人、それぞれの立場でそれぞれを確かに演じ分けている。どれも自分だけれど、広い意味でそれを「演劇」と呼んでもよいのではないだろうか。
不思議な構造の3人芝居を観ながら、わたしはふわふわと宙に浮くような気持ちになっていた。ああ、わたしも言ったことあったな。まるで漫画のセリフみたい、どうしてこんな言葉がすっと出てくるんだろうと思いながら。アングルからセリフから表情から、全部何度もリハーサルされたもののような、それこそ劇的な場面がわたしにも何度も訪れた。そんな経験をさんざんしたからこそ、永野くんの生み出す不思議な構造はどんどんとわたしの心の中に奥深く踏み込んでいった。映像も音も装置も、あんなにちいさなハコなのに、とても広がりを持ってわたしの中に入ってきた。すごいなあ。いちばん端のパイプ椅子で少し壁にもたれかかりながら、わたしはいろんな世界がどんどんめくれていくのを実感していた。
陳腐な言葉でしか語れないけど、すごくおもしろかったです。テーマをもしかしたら曲解しているのかもしれないけれど。でもわたしは世の中を不条理と感じている節があるので、あまり「不条理劇場」とは思わなかったよ。世界は確かにシュールだけれど、すごく「ある」感覚だと思えてしまった。永野くんすごいな。もっともっと観たい。加藤くんやっぱ好きだー。池浦さんってはじめて観たけどダンサーさんなのね!あのむっちりさで!歴史を書き換えるところがすごくおもしろかった。突然思い立ってチケット取ったけど大正解でした。わたしはお芝居の観すぎで感受性が豊かになりすぎてめんどくさい人間になって、人とのコミュニケーションがあんまり円滑にできなくなっちゃったのかなあとかものすごく責任転嫁したこともあったけど、やっぱりこれからも演劇を観ていきたい。演劇はちっとも虚業じゃない、ひとりっこで世間知らずなわたしはおかげでいろんなことを学ぶことができたよ。人生の師!劇場は教室!ハーバード白熱教室!!(言いたいだけ