新世界

ガチャガチャを回すとカプセルが出てくる。それを開けると、「世界」と書かれた紙が出てくる。

世界が 生まれました

抑揚のない可愛らしい声で、お人形のようなロボットがしゃべる。ああ、そうだったんだ。わたしはまだ見ぬ新しい世界と出会いたくて、いろんなものを見、聴き、読み、ひとりでどこへでもふらりと出かけてしまうんだ。ほんとうは内向的で社交性がないのに、その欲求がそんな殻をものともせずに突き破ってしまうから、だからわたしは引きこもりにならずにすんだんだ。
Q10は不思議なドラマだ。そんなわけあるかーいと思うシーンがたくさんあるのに、ひとつひとつがなんだか胸にささってくる。なつかしいのか、せつないのか、どうしてこんなに胸がきゅうっとなるのか理由がわからない。手ざわりだってどちらかというとひんやりしているのに、きりっと冷たくて爽やかな、だけどちょっと苦みのあるレモン水のようにどんどん飲みたくなってしまう。ねこぢるにしか見えなかったたけるんが、とてもとても魅力的だ。全然なじみのなかった前田のあっちゃんが、かわいくて仕方ない。
ちいさなことだけど、ここでまた新しい世界が生まれた。Q10を見なければ、たけるんやあっちゃんにどきどきわくわくすることもなかった。わたしは知りたくてたまらない。まだわたしが出会えていない、わたしの肌にぴったりとなじむ新しい世界を。虚ろな目で行き交う電車を見ていたときも、わたしをつなぎ止めていたのはそんな気持ちだった。ああ、世界のどこかに、わたしを待ってる世界がある。壮大な「いい日旅立ち」みたいなフレーズだけど、わたしはその欲求だけで動いているといっても言い過ぎじゃない。それは何かの作品に限ったことではなく、人との出会いでもそう。たとえ旧知の仲の友人にでもその瞬間は訪れるから、ぞくぞくしてたまらない。わたしもそうやって待ち受けるばかりではなくて、だれかの新しい世界になれてたらいいな。まさかね、Q10がそんなこと思わせてくれるドラマとは思わなかったよ。生きていくのが楽しくなっちゃったなあ。