認めざるを、えなーい!

佐藤雅彦ディレクション 
“これも自分と認めざるをえない”展@21_21 DESIGN SIGHT
2010.7.16〜11.3
本展では表現研究者の佐藤雅彦をディレクターに迎え、「自分」を形作る要素を探る作品を通して、自分自身の「属性」を発見する機会を作ります。デザインやものづくりの前提と考えられている「自分らしさ」や「個性」について、来場者とともに新たな視点を思索していきます。
http://www.2121designsight.jp/

作品のほとんどが体験型。ゆえに時間がかかり、土日なんかに行くと混んじゃってたいへん!という話だったので、平日の開場時間を狙ってセレブプレイスに突撃!それでも11時半近くに入場して、会場を出たのが14時半ごろ。余すところなく体験したとはいえ、平日でもこのくらいの混雑状況でした。1つに4分かかる作品とかもあって、10人並んでたら単純に40分待ちだからね……。でもすごくおもしろくて興味深いエキシビションでした。あと、テクノロジーの発達具合がすぎょい!とアホの子のように目を丸くすることしきり。11月までやってるので、行けそうならぜひ行ってみてください。ほんとにおもしろいから。あと、余計なお世話かもしんないですけど、並ぶわりにはいまいちという展示もあって、「座席番号G-19」と「心音移入」は、ものすごく混雑してたらスルーしてもかまわないと思います。他はおもしろいからやったほうがいい。以下、ネタバレ(っていうの?)でーす。
まず名前を入力し、身長、体重、虹彩のデータをとられるところからスタート。あと、リモコンみたいなの持って空中に大きな☆を書けと言われます。そこで自分の「属性」を記録することで、以降の作品がものすごく楽しいことになっていきます。印象に残ったのだけ書いていくこととする!

1.指紋の池
指紋認識装置の上に指を置くと、前の画面に自分の指紋が浮かび上がります。それがおたまじゃくしみたいになって、広い画面の上を泳ぎ始めます。わたしの分身、指紋の群れのなかにちゃんと溶け込めるかしら。隅っこのほうでひとりぼっちになってないかしら。しばらく目で追ってましたけど、そのうち見失いました。

2.属性のゲート
行く手に立ちはだかる3つのゲート。ゲートの上にはカメラがあって、そこに映る自分の姿を機械が認識し、当てはまると判断されたほうのゲートが開くんだけど、最初の質問は「男性」「女性」。「女性」の前に立ってカメラを見つめると、無事そこが開いてまずはセーフ。次が「UNDER30」「OVER30」というたいへんきわどい感じのゲートなんだけど、まず「UNDER30」の前に立ってそっちが開かないと悲しい結末になる(事前に計算)ので、とりあえず正直に「OVER30」の前に(できるだけイノセントな表情を作って)立つと、逆側のゲートが開く音が!よっしゃ!と思わずガッツポーズ、「笑顔」「無表情」のゲートでは、うれしさのあまり満面の笑顔で「笑顔」の前に立ちます。「笑顔」が開いた!やった!たのしい!空気を読んでくれた機械にたいへん満足するぴよまるこでありました。ちなみにショートカットのおともだちのときに「男性」のゲートが開いて、ん?もしかして髪型で判断してる?って思う瞬間もあったけど、機械の顔認識のある程度の限界がわかったような気がしました。おもしろい。

3.属性の積算
柱の前に立つと、まずは身長のデータをもとに、スクリーンに自分の属性に近い人の名前が「○○あるいは○○あるいはピヨ丸」みたいにずらーっと出てきます。8人ぐらいの名前の中に自分を見つけて安心、次は体重のデータをもとにその中から自分を絞り込んでくれます。出た!ぴよまるこ出た!やった!中には絞りきられずに3人ぐらいの名前が出て終わる場合もあるみたい。自分とまったく同じ背格好の人がいるってことで、それはそれで興味深いけれど。

4.覗かれ穴
大きな箱に覗き穴。覗くとただの海水浴場の写真があるだけなんだけど、実は箱の上のほうに覗いている人の視界が映るという仕組み。だから覗いてる本人は見えないんだけど、自分の視界を他人に覗かれているという、おもしろくもあり不安な作品。

5.Outline to go
スクリーンから出ている紐を引っ張りながら下がっていくと、スクリーンに自分の輪郭が一筆書きみたいに映し出される。全部引き出しきったところで紐を放すと、その輪郭の長さを計算されて、自分の外周がわかるという仕組み。これすごいおもしろかった!わたしは6.7mくらいだったかな?作品案内の紙を持ったままやったら、紙の外周も一緒に測られちゃった(笑

6.ふるまいに宿る属性
スクリーンに自分も含め、来場者の名前がわーっと散らばっている。いちばん最初にやったみたいに、そのスクリーンの前に立ってリモコンで大きな☆を書くと、自分のふるまいに似た人の名前がピックアップされて残るという作品。わたしの名前のところは少し字が濃くなっていて、その中でもより似てる人まで絞り込んでくれるみたい。また認識された。うれしい。

7.頭の中の散らばり方
芸能人、著名人のパソコンのデスクトップが展示されている。デスクトップいっぱいにアイコンが敷き詰められていて、買ったときにインストールされてる「@niftyでインターネット」みたいなショートカットまで全部そのままになっていて、「この人ぜったい仕事できないタイプだよw」って笑ってたら穂村弘だった(笑)逆に椎名林檎は壁紙もMacの初期設定のまま、アイコンも3つくらいしかなくて、整然としすぎていてなんだか怖かった。佐藤雅彦はランチャーにやたらアイコン放り込んでいて、個性って出るもんなんだなあと。他人にデスクトップ見られるって結構恥ずかしいね……。

8.金魚が先か、自分が先か
小屋の中に入るとそこは洗面所になっていて、背後には水槽。洗面所の鏡に映る水槽には金魚がいるのに、振り返ってそこにある水槽をみると金魚がいない。あれ?あ、これ、鏡じゃないんだ!向こう側にもうひとつ同じ部屋が左右対称に作ってあって、そっちの水槽には金魚がいて、これはただの窓なんだ!そうだよね、わたしの姿映ってないし……。ということで、まず金魚が気になっちゃって自分の姿が映らないことに気付かないという、ちょっとしたパラドックスを面白がる展示でした。まあでもこれってタイトルのおかげでまず金魚が気になるのも当然という気もするけど、でもやっぱり「そうなってしまう」面白さに満足しました。

9.2048
スクリーンに目を模したような円と、その真ん中に来場者の名前がランダムに次々と表示されている。その前で虹彩を撮影すると、虹彩のID機能って指紋以上に正確っていうから、当然自分の名前がスクリーンに表示されるんだけど、そのスクリーンの表示を黒板消しで消していくことができるわけ。で、少し消すと「まだあなたです」と言われて、ある程度まで消していくと「もうあなたではありません」って言われるんだけど、「もうあなたではありません」って言われたときの寂寥感たるや……。なんだかそのふたつのアナウンスだけで、物語が広がるような気がしてしまったよ。

10.新しい過去
自分のフルネームと好きな食べものを入力するように言われて、テープレコーダーの置いてある机の前に座ると、勝手にテープレコーダーのボタンが押されて録音テープが回り出す。この時点でかなり怖いんだけど、そこから流れてくるのは、舌足らずであまり抑揚のない、幼い女の子の声。わたしに語られた新しい過去の物語は、こうだった。

○○○○(本名)です。
うんどうかいのかけっこで、とちゅうでころんでしまいました。かなしくてなきそうになったけど、がまんしてさいごまではしりました。ビリでした。おとうさんがきて、よくがんばったねといって、はるまきをたべさせてくれました。はるまきがだいすきになりました。

そんなきっかけが……!(爆笑
「ビリでした」と言われたときにはあまりに切なくて爆笑してしまったんだけど、なんだかこの新しい過去の物語は、気がついたら自分の記憶にすり替わりそうで怖いなって思ってしまった。ちなみにおともだちは「気に入っていたブランコが、ある日公園に行ったらなくなっていた→悲しくて泣くの我慢してたらお母さんがとうもろこしを食べさせてくれた→とうもろこしがだいすきになりました」エピソードが似ている!!!過去には何パターンあるのかすごく興味あるんだけど、この子の声がいまだに脳裏に焼き付いて消えません。ああ、わたしが春巻きを好きになったのは、泣かないで最後まで走ったわたしをお父さんがほめてくれたおかげなんだなあ。泣ける。知らない過去に泣ける。そんな経験身に覚えないけどな……!

11.指紋の池(ふたたび)
再び指紋認識装置に指を置くと手前に枠が表示され、指紋おたまじゃくしの群れから自分の指紋がこちらに向かって一目散に泳いでくる!うわーん!おかえり!会いたかった!わたしの分身は枠の前で少し迷うようにぐるぐる泳いでから、枠の中にきちんと収まった。なんだろう、この泣きそうな気持ちは。わたしに再会できたことへの安心感なのかな。

このエキシビションを通じて、おバカなわたしなりに出した結論は「人って自分を認識してもらいたがってるんだ」ということでした。どこにいってもつきまとう、自分を認識されたことに対する安心感。そして、属性を認識する手段の多彩さに驚きました。佐藤雅彦すごい。ほんとすごい。アタマん中どうなってんだ。
うーん、しかしアートを文字で表現することの難しさよ!自分の体験を覚えていたくて、つたないながらも記録してしまったよ。でも新しく見えてくる世界や最新技術に驚きっぱなしで、盛況なのも深くうなずけるエキシビションでした。入場料1000円じゃ安いぐらい!