ダメ人間博覧会

裏切りの街@PARCO劇場
作・演出:三浦大輔
出演:秋山菜津子田中圭安藤サクラ、古澤裕介、米村亮太朗江口のりこ松尾スズキ

5/29ソワレ。初・三浦大輔、覚悟して行った。
先月のわたしだったらとても観に行けそうになかったけど、なんとなく復活してきたので行ってみた。この日は峯田の主題歌弾き語りがあった日。開演前にウグイス嬢が「本日はカーテンコールで峯田和伸さんによる主題歌『ピンクローター』の弾き語りがあります」的なことを言わされていておもしろかった。軽く羞恥プレイ。
三浦大輔の芝居はリアルで生々しいといううっすらとした予備知識しかなくて、でもパルコだからきっと本番っぽいことはしないだろう、どこまですれすれのことやるんだろうなという、幕が上がるまでは本当に物見遊山的な興味しかなかったのだ。濡れ場とか圭くんの生尻とかはあったけどそれ以上のすごいことは起こらなかったし、昔からのファンは「パルコに迎合して生温くなっちゃって!」みたいなことを言ってる人もいるみたいだけど、わたしは物語の端々に垣間見える、あまりにリアルな世界に釘付けになってしまった。
それぞれに相手がいる人妻と若いフリーターが道ならぬ恋に落ちる。あらすじをこう書いてしまうとなんだかきれいにまとまってしまうけれど、そんなチャタレイ夫人の恋人みたいな話じゃない。お互いなんとなく満たされないふたりがなんとなくかけた出会い系ダイヤルでなんとなく出会い、お互いの名前も知らないまま何度も体を重ねて子を宿す。夫は自分の子ではないことを知っているのに妻の嘘を疑わないふりをして「産んでくれるよね?」と聞き、妻は大きなお腹を抱えたままどん底にいるフリーターと再会、「ふたりでどっか逃げちゃおうか」「そうですね」と叶いもしないことを口にする。尋常じゃない状況にいるふたりはその深刻さをいまいち実感できないまま呆然と佇み、なんとなく幕が下りていく。
妻ひとすじ、彼氏ひとすじかと思いきや、相手に黙って浮気を重ねていた夫と彼女。登場人物全員が不実を働いていたという現実を目の当たりにしたとき、果たしてこれをほんとうに不実と呼んでいいのかと首をひねりたくなる。
人妻の妹が借金まみれの男と結婚するので金を貸りたいとやってきたときに言った「ドラマみたいなことって本当に起こるんだよ」というセリフ、ああわたしはこのセリフをこんなにも実感できるようになってしまったんだなあと思いながら、ダメ人間たちがダメな行為をどんどん重ねていく様を懐かしいような気持ちで見つめてしまった。痛さを通り越して苦笑してしまうような、これはダメ人間にしかわからない「ダメ人間あるある」芝居なんだなと思った。深刻な事態に直面しても皮膚感覚が伴わないあの感じ、あれは体験したことのある人にしかわからない。別にわかりたくもなかったけど、ある意味彼岸に渡ってしまった今のわたしにはこの芝居のすごみが痛いほどわかる。何が正しくて何が間違っているのかわからなくなる感じ、モラルという言葉は意味を失って、方向感覚が静かに麻痺していくおそろしさ、最後まで逃げて逃げて逃げ続けて、袋小路に追い詰められてもなんとかなるような気がして立ちつくしてしまう、足下がおぼつかないあの感じ。きっと人妻はなんとなく子どもを産み、問題を先送りにして生き続けることだろう。いや、逃げているわけじゃないのだ。向き合い方がわからないだけなのだ。それをダメだと一刀両断してしまうのは簡単だけれど、人は案外簡単に足を踏み外してしまい、狂い始めた歯車の正し方をわからないままどんどん深みにはまってしまう。
圭くんのダメすぎるダメっぷりが堂に入っていて、彼はこっちの世界の人なんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。あの猫背、しゃべり方、ほんとうにイライラした。うまいなあ。きっとあれは圭くんにしかできない。わたしは向井理と圭くんを混同しがちだったんだけど、向井くんにこの役はできない気がする。だってもっとちゃんとしてそうだから(ひどい)。幕が開いてオナってるシーンが目に飛び込んできたとき、ああ、圭くんはダメができる人だって直感したもの。これでやっと完璧に判別できるようになったよ!!
秋山さんはものすごいおばちゃんぽい芝居をしてたのに、やっぱりすごく色気がある。ほんとハマり役すぎるよ!そういえば「お笑いで何が好き?」という質問に「ブラマヨです」って答えたり、M-1について熱く語り過ぎちゃったりするところがすごくリアルだったなあー。
松尾ちゃん。なんか、ひさびさに見たらものすごいおじいちゃんぽくなってて笑いが止まらなかったよ……。相変わらずどこまでアドリブなの?って芝居が炸裂しておりました。圭くんを問い詰めるシーンはこわかったなあ。「しれっと」芝居の真骨頂を見せていただきましたよ。
安藤さんってわたし初めて観た気がする。なんだか、いちばんリアルに感じたよ。こういう人いる……というか、自分の中にも住んでいるあの子の部分がざわざわと音を立てて、そのたびに胸がちりちりとした。こわかった。ほんと、こわかった。
この芝居をこのタイミングで観られたという、わたしにしかわからない奇跡。奇跡なんてきれいな言葉で片付けてはいけないけれど、貴重な体験ができたような気がする。三浦大輔を実感できるようになっちゃいけないとは思うんだけどw
余談。お友達に「大音響に注意!」と忠告をいただいていたのでなんとか耳をふさぐことで回避できたけど、とにかくSEの音量が大きすぎて辟易……ラスト、ピンクローターがでっかく鳴る中でのカーテンコール、しかもフルコーラス聴いたあとにまた峯田が出てきて歌うっちゅう……w しかも幕開いて出てきた峯田が半裸にギター抱えてるというあまりにシュールな画に腹筋が割れそうでした。なんで脱いでんの!!明らかに場違いな雰囲気ですごい内容の歌を熱唱し、そのままピンスポが消えて闇に溶けていく峯田……。なんかすごいもん観ました。いろんな意味で。