タイムマシン

まだ、志村のことを考えている。
考えても考えても、フジがだいすきだったあの子みたいに事実を受け入れたくなくてCDもDVDも雑誌も全部遠ざけてしまうでもなく、むしろ昔より積極的に音源を聴くようになり、繰り返し繰り返しもうこの声の主はいないんだと思いこもうとしても、
ぜんぜん信じられない。
わからないんだ。ニコ動でものすごい数の追悼コメントを読んでも、志村會の詳細が発表されても、だって志村の声はこんな近くに聞こえてくる。
ミッシェルのアベのときは、もっと皮膚に刺さるような悲しみがあった。でもわたしは志村の訃報を知ってから、一度も涙を流せないでいる。茜色の夕日を聴いても、ぜんぜんぐっとこない。ただ志村の声だ、わたしの大好きな顔の、いっつもヘンタイなことばっか言ってた、あの志村の歌声だとしか感じられない。
デビュー前にQUEで見た、farmstayアサウチがつっぱりハイスクールロックンロールをがんがんに歌う後ろで、微笑みながら手拍子をしていたあの女の子みたいな面影を思い出しても、ああ可愛かったなあとにやけてしまうだけで。
けれど。
最後のアルバムがこんなタイトルなんて、と、仕事しながらクロニクル聴いてたら、タイムマシンで急に来た。

欲を言えば 欲を言えば
君の声が聴きたいんだ

ああ、もう新しい歌を歌う志村の声は聴けないんだ。
しんとした悲しみは感じるけれど、でもその先に響かない。悲しみの余韻が続かない。だって、もういないなんて信じられないから。
人間失格という映画で中原中也を森田ゴウがやるけれども、わたしはどうしても志村に演じてもらいたかった。あんなに生き写しみたいに似てる人は他に知らない。しかも中也よりわずかに若くして死ぬなんて。薄命にもほどがあるっていうんだよ。

大きな声で 歌えば届くかと
出来るだけ 歌うよ

きっと来年も再来年もちっとも実感が湧かないまま、
遠くから新しい歌が響いてこないかと、わたしはずっと耳を澄まして待ってしまうよ。

CHRONICLE(DVD付)

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