蛮幽鬼1回目2回目

Inouekabuki Shochiku-mix「蛮幽鬼
作:中島かずき 演出:いのうえひでのり
出演:上川隆也 稲森いずみ 早乙女太一橋本じゅん 高田聖子 粟根まこと山内圭哉 山本 亨 千葉哲也/堺 雅人

ダメもとで大阪楽を申し込んだら当たってしまった。しかも保険かけまくってぶっこんだら東京3公演分取れてしまった。そして来たチケット全部、6列目以内の席だ。ここんとこFCで取る席全部そんな感じだ。全体見えないからもうちょっと後ろで見たい……と贅沢すぎる悩みをつぶやくぴよまるこ。でも至近距離で堺さんの百面相を見てしまうとそんな気持ちは瞬時に吹っ飛んでしまう。
おかしい。どうかしている。今年は厄年なのに。神様は正気だろうか。
1回目、10/1ソワレ。幕開いて2日目。
いのうえさんはほんとうによくわかっている人だ。他のどの演出家よりファン心理に精通している人だと、今回またその確信を深めてしまったよ。
クレジットの最後を飾る堺さんの役どころは、被害者に「人を殺すときはもうちょっと緊張感のある顔をしてくれないかな」と言われてしまうほど微笑みを絶やさずに人殺しをする最強の殺し屋だった。笑顔で「僕が考えてるのは人を殺すことだけだよ」と言い放ち、上川の仲間として立ち居振る舞っていたけれど、下心を隠して彼をずっと裏切り続けていた男。
いのうえさんを胴上げしたい気持ちでいっぱいなんだけど、ただ一点、最強の殺し屋という部分がキモであった。最強ということは殺陣の経験豊富な上川や太一くんより強く見えなければならないんだけど、確かこの人ってあんまり運動神経よくなかったような気がする……。不安にさいなまれつつ固唾をのんで立ち回りを見守るわたくし。
なんか体操っぽい……。
太一くんの殺陣は華麗でとにかく速くて最強だし、上川も迫力のあるしなやかな太刀筋だし、そんなすごいもんに対抗してそれ以上の実力のように見せなきゃなんないんだから相当大変だとは思うけど、まだまだ相手に合わせてもらっているというか、タイミングがいまいち合わないというか、ひたすら「がんばれ…!」と手に汗握る思いをいたしました。それをにこにこしながらやんなきゃいけないんだからたいへんだとは思うけど、どう見たって太一くんがいちばん強そうだよ!!がんばれまさとさん!!でも彼は拍子抜けするほど新感線の世界にハマりまくっていて、今まで出てなかったことを不思議に思うほどでした。手をグーにして花道を駆けてゆくのがたいそうかわいらしかったです!!あと、噛む堺さんというめずらしいものがみられました。
初めてのナマ太一くんはものすごい見目麗しさでした。女形での舞ももちろんのこと、そのあと男に戻って美古都を守るナイトっぷりがもうツボすぎる!!自分と世界とを隔絶していた青年が人のために命を落とすことの至福に目覚めていく役なんて、太一くんにハマらないわけがない。すごい。断然すごい。すごい人だとは聞いていたけれど、実際に間近で観てあまりのポテンシャルの高さにひっくり返ってしまったよ。
上川はザ・安定感という感じがものすごい。また復讐鬼の役ー?って思ったけど、でもハマるんだから仕方ない。わたしはコミカルな役のほうが好きなので、蛮心教のもとに山内さん演じる浮名がやってくるシーンが楽しくてしょうがない。あの間の取り方とかたまらん!!あのシーンは堺さんのわざとらしい芝居も堪能できて二度おいしいのであった。山内さんも伸び伸びやってる感じが伝わってきて楽しいし、今回はやられっぱなしだけど立ち回るときに着物の裾から刺青が見えないかいらぬ心配をしてしまった。粟根さんとのコンビも最高!粟根さんの小者っぷりも最高!いっつもせこくてずるい役という徹底っぷりが気持ちいいですな。
じゅんさんが!じゅんさんが自由!!もう出てくるだけで笑っちゃうもん。まさか芝居でコールアンドレスポンスをやることになるとは思いませんでした。「なんぼの!」「もんじゃーい」というどうでもいい掛け合いが響き渡る新橋演舞場。長い歴史を誇る演舞場でも初めての出来事だと思います。すごい。革新的。
あと地味にわたしがいちばんうれしかったのは、さとみちゃんが普通にかわいい女の子の役をやっていることです。心の底から安心してしまった。よかったねえさとみちゃん!逆にいつもよりインパクトに欠けているという残念な結果になってるけど、それでもわたしはうれしいよ!!ご両親もうれしかろう!(いらぬ心配
稲森さん顔ちっさ!ちっさ!!こぶし大ではないかと思うほどの小顔っぷりであった。ウエストもほっそいし、どこに内蔵が詰まってんだろうと思うほど。まだちょっと役がしみこんでない感じで、一瞬セリフに詰まってひやっとしたけどその後は大丈夫だった。なんだか今後化けていきそうな予感。
カーテンコールで上川に振られてじゅんさんがひとこと。「本日は2日目にご来場いただきありがとうございました。ずいぶん舞台上をカミカミ虫が飛び回っておりましたが(ここで堺さんが後ろ向いて苦笑)2ヶ月間がんばっていきたいと思います。こんなご時世ですので、私たちもみなさんも体調に気をつけて過ごしましょう。できましたらカミカミ虫の飛んでない日にまたご来場いただけるとうれしいです。ありがとうございました」
2回目、10/15マチネ。花道セリ脇という神席でございました。
芝居が、殺陣が、ものすごい進化していてびっくりした。2日目に観たときとは説得力が段違い。初回は個人的に俳優を観ているという部分が多かったんだけど、今回はとにかく内容に引き込まれた。サジに裏切られたことを知ったとき、土門はなぜそこまでの激昂もなく事実を受け入れたのだろうか。きっと親友だと言いながらも、彼には心のどこかに拭い去れない不信感があったのだろうと思う。親友だ、仲間だと言い聞かせて裏切られた過去を消そうとしても、やはりその得体の知れない微笑みはどう考えてもあやしく、何よりも自分と同じ匂いをかぎつけてしまったから、憎しみというよりも同病相憐れむような気持ちでサジを斬ることができたのだろう。裏切られた孤独を癒すためには殺戮を繰り返すことしかできなかった2人の屍を超えて生きなければならない美古都の、なんという切なさ。こんなにも救われない物語なのに観終わった後になぜかほっとしてしまうのは、復讐という人生しか生きることができなかった男たちが死によってやっと解放されたという、ある意味ハッピーエンドだからかもしれない。
わたし地味にサジと大君のシーンが大好きなんです。右近さんが好きすぎるっていうのももちろんあるけど、あの大君の切なすぎる賢さが身を切られるように痛い。ちょっとコミカルなシーンではあるけど、キャラクターがちょっと篤姫の定家を彷彿とさせてほんと切ないんだよなあ。
稲森さんがものすごくよくなっていた。最初観たときは威厳に満ちた美古都をがんばって演じていた感じがしたけれど、強さと弱さを内包する女性の悲哀が自然に伝わってきて、涙腺をたいそう刺激されてしまったよ。泣くシーンは本気で泣いてるし、舞台経験少ないのにすごいぜ…!と目が点になってもうた。
そして朗報が!!堺さんの殺陣がすごく上手くなってた!ひゃっほう!ラストの太一くんと山本さんとの三つ巴シーンは相変わらず堺さんがちょっかい出しに行ってるようにしか見えなくてかわいかったけど、でも全体的にすばやさやしなやかさが上がって、確実に経験値上がってレベルアップしちょる!と大興奮。ニコニコしながら人殺すって役だけどさすがに殺陣の最中は真剣な顔で、でもとどめ刺すときは笑顔だったりして、その切り替えにものすごくしびれました。花道セリ脇の席だったからちょうど役者が止まって芝居する位置で、そこで中腰になったり座ったりするもんだからもう顔が近くてどきどきしちゃってたいへんだったよ!!台詞をしゃべってないときの演技が秀逸で、舞台で芝居進行してても花道の堺さんを見上げていたのでわたくしかなりKYな感じだったんですけど、表情がくるくる変わってほんとうにおもしろい。「あれ?ばれちゃった?」って舌出したり、びっくりしたときに目をしばたたかせたりするのがもう、たいへんに心臓に悪かったです。上川に真剣に詰め寄るシーンなんてあまりに至近距離すぎてその発声の良さが腹まで響いて、腹式呼吸vs腹式呼吸!!って意味のわからない感動をしてしまいました。
今回カーテンコールで挨拶はなかったけど、3回目くらいに堺さんがなんと両手を振りながら出てきて、ちょっとそんなことどこで覚えたの!?って思いました。たいへん!振らなくちゃ!と思って手を振っていたら、はけぎわにちょっと腰を落としてこっち向いて満面の笑顔で、両手で小刻みに手を振って去ってゆきました。びっくりした。同じ列の女の子も両手振ってアピールしてたのでそっちの子に振ったのかもしれませんが、わたしの特技は「自分に都合のいいように解釈する」ですので誤解しておきたいと思います。まさか俳優にファンサされる*1とは思ってもみませんでした。かわゆかったけどいつの間にそんなアイドルみたいになってしまったのか……。満足です。ほんとうに満足です!!!
五右衛門のときのような「ちょうちょう面白かった!また観たい!すぐ観たい!」ってなるような作品ではなかったけど、この進化の過程を見ていると楽までにどんな化け方をするのか楽しみでしょうがありません。新感線あいしてる!!

*1:ジャニオタ用語でファンサービスをされるの意