餌付け禁止

わけあって、半年後までにやせねばならなくなった。別にミスコンに出るとかではない。ミス・コンニャクならなんとなくいい線までいけそうだが、そういうわけではない。
昨日出社すると、会社の共有スペースに全国各地のお土産があふれていた。ハワイ、福島、沖縄、新潟、鹿児島、北海道……。イエーイなんつってバイキング形式で全部ひとつずつ取っていったら、軽く両手いっぱいあふれるほどになった。
ここでふと気づく。わたしはのんきにバイキングなどしていてはいけないのではないかと。……いや、しかしこれは好意だ。同僚への気遣いだ。ならば受け取らなくてどうする。これも立派な思いやりなのだ!!
ハワイに行ってきた同僚からはノーマルマカダミアナッツとチョコがけマカダミアナッツとホワイトチョコマカダミアナッツが置いてあって、それこそもうザ・カロリーという様相を呈していたのだけど、デブは太るものが好きという法則通りわたしもマカダミア大好きっこであるので、ちょっとここはノーマルなやつだけいただいておこう…と慎ましやかな態度を取っていたら、別の同僚がわたしのところへやってきて、「ピヨ丸さん、はい!」ってホワイトチョコマカダミアナッツを差し出すのだった。
いらないよそんな優しさ……。でもNOと言えない日本人。好きだし。ほんとはノドから手が出るほど食べたかったし!!
ピヨ丸の受難はその後も続く。
北海道土産の大定番、マルセイバターサンドをいやっほい!なんて言いながら食べたんだけど、上司がもう1個のバターサンドを手にわたしのデスクを訪れたのだ。
「俺さあ、レーズン食べれないから代わりに食べてくんない?」
「えっ!でっでもわたしさっきいただきましたし!」
「俺の分も食べといてー」
どうしてわたしが選ばれたんだろう。……しかし1度断ったものを2度断ることはできない。上司の命令だし!!と、心の中で言い訳をつぶやきながら、それでもちょっとした喜びを隠せずにわたしはそのバターサンドを引き出しにしまう。それから時は過ぎ、19時半頃まで仕事をし、いったん夕飯を食べて会社に戻るやいなや、さっきの上司がわたしを呼び止めるのだ。
「ねえねえ、俺これひとりで食えないから協力してくんない?ちょう美味いんだよ!」
手に持ってるその袋、マカダミアナッツって書いてあるよねえ?しかもガーリックパウダーって文字が見えるんですけど……。
あわあわしているわたしをよそに、ティッシュの上に香ばしい匂いのマカダミアナッツをざざーって出す上司。
「あの!!これちょう危険な食べ物じゃないですか!!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ、これで200kcalくらいしかないから」
なぜ、なぜわたしなのか。どうして今日に限ってそんなにも優しいのか。今日、上司から食べ物のこと以外で話しかけられてないよわたし……。なんかこの人、わたしのもくろみを見破って嫌がらせをしてるようにしか思えないよ!
ガーリックパウダーまみれのマカダミアナッツはそりゃあもうおいしくて、一粒口に含むごとにカロリーが体中を駆けめぐるような感覚におそわれた。なんだかもう、どうやったらやせられるのかまったくわからなくなってしまった。