連想ゲーム

桜の季節に亡くなった先輩を悼んで仲間内で文集を作ることになり、同期と先輩で集まって故人のおもしろエピソードをゲラゲラ笑いながら語っていたら、ふと先輩がつぶやいた。
「もういないなんて信じらんないね。どっか旅に出てるみたい」
各地を転々としている人だったからなおのこと実感がわかなかったけれど、吟遊詩人と自称していた彼の特徴のある字や、やけに面白かったりとても洒脱だったりするポエムを読んでいると、なんともやりきれなさばかりがこみ上げる。
打ち合わせが終わって美容院へ行き、フェスに向けてひとり断髪式を終えたら美容師に「やっぱりこの髪型が落ち着くねえ」としみじみ言われた。たまにはと思って伸ばしてみることもあるけれど、結局はショートカットに戻ってきてしまう。すっぴんでTシャツ半ズボン姿だとまんま中学生な自分、ひさしぶり。会いたかった。
そのあと連れと落ち合ってカラオケに行ったら、断りもなくミッシェルの世界の終わりを歌うもんだから、「ああ泣いちゃうじゃん」と思っていたらあっという間に号泣になって自分でもびっくりしてしまった。鼻がズルズルいうほど泣くなんて思わなかった。
世界の終わりが そこで待ってると 思い出したよに 君は笑い出す
早死にはロックだ、かっこいいなんて冗談じゃない。生きて生きて生き抜くのが最高にクールだって決まってる。
あんまり泣いて歌えなくなってしまったので、勝手にしやがれを歌ってと頼んだ。そこから昭和スイッチが入り、時の流れに身をまかせを歌ったら、今度はテレサテンのことを思ってまた泣いてしまった。そしたら連れがガラスの十代を歌い出したから涙が止まり、わたしは小坂明子のあなたを熱唱した。そしてわたしはレースを編むのよ!今度は歌詞の内容に涙が出たけど、いやが上にも盛り上がる演奏のおかげでなんとかがんばった。次に連れはパラダイス銀河を歌い、さらにごめんよ涙を歌い、さらにギンギラギンにさりげなく、ごらん金と銀の器を抱いてー罪と罰のー酒を満たしたーって朗々と歌い上げるなどひとりジャニーズ大会を開催していたので、涙はいつの間にかどっかにいってしまった。わたしは悲しみ本線日本海天城越えを気持ち悪いくらい感情を込めて歌い、リクエストで五輪真弓の恋人よを初めて歌ったのだけど、こんなにむずかしい歌とは知らずたいへん苦労したのだった。
終了時間になってもなぜかふたりとも切り上げようとせず、しかしわたしは最後のつもりで江利チエミテネシーワルツを歌った。こんなに郷愁に満ちた旋律なのに、歌詞は自分のボーイフレンドを友達に取られたっつうどうしようもない歌詞なんだぜ、マイケルのビリー・ジーンも歌詞の内容は結構がっかりだよね、なんて話をしてたら連れの洋楽スイッチが入ってしまい、バーンやらスイートチャイルドオーマインやらトゥービーウィズユーだのを歌い始めた。バーンは桜の季節に亡くなった先輩が組んでいたバンドでやっていて、その超絶歌唱に驚愕した記憶がよみがえってきてまた少しさみしくなった。何も聴いても、何を見ても誰かを思い出す。それは幸せなことだけれど、裏返った瞬間すべてが心に刺さってくるんだと思うと、ひどくぞっとした。
どうか、みんな元気で。