パイパー

野田地図第14回公演「パイパー」@シアターコクーン

気がついたら、涙が出ているのだ。
野田の芝居はいつもそうだ。明確なきっかけなんてほとんどない。ただ、ある瞬間ふいに涙が流れ出す。心を揺さぶられるというのは、こういう現象なんだなと他人事のように思う。
そして、変な言い方だけれど誰かと語り合いたくないのだ。口に出せるほどはっきりとした言葉を持てないし、それでも口に出すと言葉が勝手に上滑りしてしまう。あの空間で見たものが、全部陳腐なものになってしまいそうだからだ。
「ロープ」で我を忘れて直接的で徹底的な暴力を描いた野田が、荒廃を描きながらも優しい視線で最後に希望を託す、ナウシカのラストシーンを彷彿とさせるラストシーン。なんとめずらしいと思いながらも、その事実がひたすらうれしかった。
ああ、口に出したくないと言いながら書いてしまったじゃないか。
お松はすごいね。ほんとうにすごい。オイルで泣かされて、パイパーでも。親子の道中をすべて言葉で表現するという、りえちゃんとの怒濤の掛け合いに思わず涙が出た。なんという役者さんだろう。メタルマクベスのときも思ったけど、わたしはお松がいらいらしている芝居が大好きだ。あんなに流暢に言葉を感情に乗せられたら楽しいだろうな。だけど、つらいだろうな。もう丸2ヶ月も同じ芝居を毎日繰り返しているのに、お松はクライマックスで泣いていた。いちばん胸が締め付けられるシーンで。だから余計、心臓がぎゅっとした。
今でも印象的なシーンを思い出すと、胸がずきんとする。パンドラやオイルでは圧倒的な質量で、たぶんもっと明確な理由で胸をやられたけれど、これはオブラートに包まれた痛みだ。だから逆にタチが悪いのかもしれない。じわじわくる。真綿で首を絞められるように。
子どもは人間じゃないんだよ。だからなんでも飲み込める。
芝居を見ている最中はポジティブな意味に受け取っていたのに、ふとそれが裏返った瞬間、震えがきた。
野田はこわい。こわいから、見てしまう。今度ダイバーをしのぶちゃんがやるね。楽しみです。でも野田が芸劇の芸術監督になっちゃったからたぶんコクーンでやるのこれが最後なんだ…。いやだ!池袋なんてめんどくさいよー!!野田はコクーンじゃなきゃいやなのにー!!(じたばた