踏切のある風景

東急池上線沿線に住んでいる。
都内で生まれ育って30年だが、居を構えることになって初めてこの電車に乗った。沿線に家や学校がある人以外、まったく縁のない路線だからだ。
初めて乗って、びっくりした。3両しかないことに。
都心にほど近いこの場所で、世田谷線以外にこんなに短い電車があるとは。しかも沿線のほとんどの駅には踏切がある。なんというのどかな風景だろう。夜は帰宅ラッシュで半端なく混むので、「いい加減1両増やしてくれYO!」と文句を言ったり、踏切のカンカンという音にあわててダッシュしたりしているけれど、この風景が自分の世界に加わったことがひどくうれしいのだった。
「ザ・東京」という風景しか知らずに生きてきたわたしに、この変化は大きな影響をもたらした。これはぴよまるこにおけるパラダイムシフトだ。*1変な話だけど、自分に初めて故郷ができたような気がして。
デイリーポータルに「ちょっと見てきて」というコーナーがあるのだけど、「行き止まりの駅を見てきてほしい」*2というお題に対して投稿されていた「三岐鉄道北勢線西桑名駅」の写真を見たとき、知らない場所のはずなのに胸にこみ上げるものがあった。「先々、JR・近鉄の桑名駅との統合改装が予定されているので、この景色もいずれは大きく変わるのでしょう」という投稿者のひとことにさらに胸が騒いだのだけれど、はたと気がついた。この写真が見慣れた池上線の駅の風景に似ていることに。
わたしの世界にこの風景があることを再確認してぐっときて、それから将来のことを思ってぐっときた。うちの駅はいつの間にか改修され、なぜか駅の中におしゃれなケーキ屋ができた。各停しかなかった大井町線は、いつの間にか急行が走るようになった。真っ白い壁にそわそわしながら駅の中を抜けて池上線のホームにたどり着くと、いつものようなひなびた風景にほっとするのだけど、これがいつまで続くのかわからない。
わたしがこの街を離れるのが先か、この街が変わるのが先か。それはわからないけど、いずれにしても淋しさの分量は変わらない気がした。
ノスタル爺さん憑依中の午後。結構な頻度でとりついてくるので厄介です。