後ろ向きな希望
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/03/14
- メディア: 文庫
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この人の小説は、過剰に感情移入、自己投影してしまう癖のあるわたしには酷であることが多い。まったく共感できないものも中にはあるけれど、流されやすく、はっきりとした意志を持たず、すべてをなあなあにしてしまいがちなわたしにはリアルすぎて、読後感がすこぶる悪くなる。でも、わかっていながらむさぼるように読んでしまい、本を閉じては濁ったため息を吐き出す。その繰り返し。これは「ドエムですから〜」とかいう理屈ではもはや説明のつかないタチの悪さだ。
「流転」の物語ならまだいいが、ひたすらに「流される」物語だ。そして最後、ほんのわずかな希望、それを希望と呼んでいいのかわからないけど、小さな灯りがともる。相手を、自分を傷つけまいと大切なことから遠ざかり続けていたわたしは、そこにすがるような気持ちになる。逃げてばかりじゃいけないんだよねと、わたしにしては殊勝なことを思ったりする。聖人君子の物語を読んでもそんな気持ちにはなりっこない、流されて気の向くまま生きて、気がついたら小さな路地に閉じこめられていた人たちの人生が、わたしの希望になる。闇の中から立ち上る、淡い陽炎のような希望だ。
そしてわたしは、再び同じ電車に乗り合わせた人たちの人生を思う。上司に叱られ、恋人とケンカし、自分の将来をうまく思い描けない人が、わたしのすぐ隣にいるかもしれない。それぞれの悩みを持ち、それぞれの家に帰り、それぞれの部屋で眠る。たったそれだけの、ごく当たり前の事実が、なぜか少し心強く感じる。週末こそは、あの人とちゃんと話をしよう。そう思いながら眠ろう。たとえ明日になって、また決意が揺らいでいたとしても。