だろわいよ

昨日、ブックファーストに寄ったら平詰まれていてびっくりした。

小林賢太郎戯曲集: CHERRY BLOSSOM FRONT 345 ATOM CLASSIC

小林賢太郎戯曲集: CHERRY BLOSSOM FRONT 345 ATOM CLASSIC

買わないわけにはいかなかった。わたしがいちばん文字で読みたい戯曲が入っていたから。わたしの最も愛すべき、あれが入っているから。家に帰って、ビニールをぴりぴりと破いて、まずそこを開いた。

「富樫君。イソガシイという字は、心をはさむと書くのす」
「違うぜ」

全部思い出す。全部よみがえってくる。あのサンモールの少し端正な空気も、斜め上を見上げる首の角度も、陽の光を思わせる照明も、暗転になった後の小さなため息も、全部憶えている。
ひとつひとつ文字を追いながら、そうそうそうとうなずきながら、時たまセリフを読み上げながら、少し泣きそうな気持ちになった。なんておもしろいんだろうと、笑いながら怒る竹中直人みたいな気持ちになった。
そうだ。あの頃のラーメンズと、ラーメンズを取り巻くあの空気がすきだった。あの頃は冷ややかで清々しい水壁のようなものが、常に演者と客の間に立っていたような気がする。その温度がすきだった。頬を寄せるとひんやりとするけれど、次第にちょっとあったかくなってくるような、そんな錯覚がすきだった。
もう5年も前だなんて信じられないよ。アトム、今きみはどこにいるんだろう。