なく1

少し休んでからグラスに移動、もうこっこの歌声が聞こえる。早足になる。連れはテントで聴くというので、手を振って別れる。スタンディングゾーン後方がシッティングゾーンに変わり果てていたので、わたしも適当な場所を見つけて芝生にお尻をつく。こっこ手作りというそのドレスは細い彼女の体をとても豊かに優しく彩り、息を呑むような華やかさを演出していた。華やかなのはドレスだけではない。泳ぐようなフォームでメロディを奏でるこっこの表情からは、歌を歌いたいから歌う、歌うのが楽しくてしょうがない、そんな気持ちが垣間見えたのだ。“樹海の糸”をこんなにも自由に歌うこっこを見たことがない。いつもどこか不安げに視線をさまよわせながら歌う、昔の彼女はもうどこにもいない。“タイムボッカーン!”でかわいらしく踊りながら、「泣くなよベイビー出発だ!」と笑顔で歌うこっこを見ていたら、急に視界がぼやけた。「この夏、どうしても歌わなきゃいけない歌がある、明日の夜レコーディングします」という新曲の“ジュゴンの見える丘”は、もうタイトルを聴いた瞬間から全身に鳥肌が立って、時折声を詰まらせながらそれでも気丈に歌うその歌声に、どんどん涙があふれてしまう。こっこは今、あの海を見ながら歌ってるんだと思うと、涙腺がおかしくなってしまう。その涙は最後の“Never ending journey”でも止まらなくて、どこまでものびてゆく、天国にさえ届いてしまいそうな歌声に包まれて、わたしはまた小さな子どもみたいにほとほとと泣き暮れていた。吹き抜ける優しい風、ピースフルな芝生の上、ここにこっこがいる、ここにわたしがいる、歌がどこまでも響いていく。会いに来られて、本当によかった。