LAST SHOW

LAST SHOW@パルコ劇場
【作・演出】長塚圭史
【出演】風間杜夫/永作博美/北村有起哉/中山祐一朗/市川しんぺー/古田新太

土曜日、猫の開演前。隣に座っていた女性二人連れが、エドモンドのフライヤーを見ながらこんな話をしていた。
「これ見に行きたいんだよねー。八嶋マサト*1出てるし、小泉今日子も」「キョンキョンまた活動してるんだー」「でもさあ、この長塚圭史って人。この人がダメなんだよ私」「誰?」「ほら、長塚京三の息子」「あー!」「前見に行ったらさ、腹が立つくらいつまんなくて。しかも翻訳劇でしょー」
言いしれぬ苛立ちを覚えながら開演までを過ごした。別に人の嗜好にケチをつけるつもりなんてこれっぽっちもないけど。演劇というジャンルがずいぶんと一般化してきたんだなあ、そんなことを考えていた。わたしが大学生のころ、社会人になりたてのころ、周りにはお芝居を観る人なんかひとりもいなかったから。時代が変わって演劇が変わって、客席も次第にお茶の間に近づいてきた。姿勢をぐだっと崩してリラックスしきって観る人、飴だがガムだかの包みを音を立てて平気で開ける人、そういう人に遭遇するたび、わたしはなんだか悲しい気分になる。腹は立たない。ただ、悲しい気持ちになる。

話がそれました。東京楽日、ラストショウ。

グロい。しかし銃声はしない。その情報だけで十分だった。ビビりなわたしは銃声さえなければなんとかやり過ごせる。ウィー・トーマスはさすがに見に行けなかったけど、この人のグロさには割と耐性がついてきた。そのつもりだった。
しかしこのグロさは、あまりにもタチが悪い。刃物は出てきた。犬ぶらーん*2も出てきた。でもグロさの果てに見える世界が、あまりにも突き抜けていてわたしは放心してしまった。あの圧倒的なラストはなんだ。感情の錯綜はなんだ。しんぺーさんの奇想天外な登場も古田のおどけも、みんなよくゲラゲラ笑ってたけど、わたしはなにひとつとして笑えなかった。笑おうとしたのに、出てきたのは涙だった。なんだこれ。長塚ので泣いたことなんて今までひとつもなかったのに。長塚という人間は、世界をどんな目で見ているんだろう。一皮剥けばすべて同じ「愛」という感情しかないのに、それぞれすべてがいびつで、血まみれで、とてもじゃないけど両手で受け取れるような代物じゃない。それなのになんだろうこの愛しさは。ああいう形でしんぺーさんを登場させるといういわば荒療治みたいなものが、なんだかすっと腑に落ちた不思議。
今まで必ずどこかに見え隠れしていた長塚自身のエゴが、今回はまったく感じられなかったことに終演後気がついた。今までも冷静な作風ではあったけれど、今回は特に距離が増していたような気がする。これがラストショウと銘打った彼の覚悟なのか。だとしたら、これからどんな世界が彼の手で築き上げられるのか戦慄する。いろんな意味で戦慄する。
去年、友達が「燃えよ剣」を明治座で見て「杜夫萌え」したとメールを送ってきた。「モリオモエ」という語感の心地よさからことあるごとにその単語を愛用していた時期もあったが、もう恐れ多くてそんなこと言えない。あの気迫、ものすごい。ミヤコに「辛いものお好きですか?」と言った後にプリンを床に投げつけるシーン、あれ、ちょう怖かった。ホラーだった。そして最後のつぶやきのような独白。すごいものを見てる、そんな気分でわたしは舞台をにらみつけていた。すごい人を使ったんだなあ長塚、と友達でもないのに肩を組みたい気持ちになった。
永作さんはかわいいなあ。ほんとうにかわいい。ああ…ナガサクにマヨネーズが…って思いながら見てた。ダンナを心から愛する素振りがとてもかわいらしかった。
北村さん、いちばん難しいのは彼の役だったんじゃないだろうか。これが小説なら「僕」という一人称を持つべき人物。一線を越えてしまうラストに、「お前も他人事じゃないんだよ?」と問いかけられたような気がした。この人は観るたびにうまくなっていくような気がします。親の七光り、ちょうカンケーないね!(恭平)
そしてわたしはあいかわらずニャカヤマが好きすぎる。こればっかりはどうしようもないんだ。好きだから好きとしか言えないんだ。そして長塚の文脈をいちばんリアリティを持って響かせられるのは、やっぱりこの人に他ならないのかなあと思った。「僕はそんなもの撮りたくない」ってプライドを見せるところ、なんだかひどくしびれた。そして案の定途中でお亡くなり(?)に。最後まで生きてる方が少ないんじゃないかこの人。
古田に動物愛護家やらせるなんてホント皮肉屋だよ長塚センセイ。あまりにも腹にイチモツありすぎだろ!食っちゃって半分になってるのに、犬を放さない姿になんだか泣けた。独白も良かったけど、最後の「食べてみる?」にしびれた。この人ホントに最後にかっさらうな。百発百中だな。くやしーッ!
しんぺーさんが出てくることを途中まですっかりわすれていた。あの粘液の正体はいったいなんなんだ。明らかに出オチ的なところもあったけど、わたしはなんだか泣けて仕方なかったんだよ。笑えなかったんだよ。しんぺーさんって最近なんか笑い飛ばせない。せつないんだもん。「みつばち」のときもちょうよかったしさあ!それにしてもあのハケ方はマジックみたいだったよ。実際拍手起きてたしね。画期的!

カーテンコール、楽日だったので足長センセイもご登場。去り際うしろを通るときにシルエットになるんだけど、ほんっと手足長いのな!もう見とれちゃいますから!しつこく3回お呼び出し、古田はいつもみたいに眼光鋭いまま投げキッスをしてくれました。ズキュン。あれ見たさに行ってるようなもんですよ実際。中山さんは足元にあったカメラを回す素振りをしてから隣の足長センセイに声かけたりしてて、このふたりがしゃべってるとこ見んのちょう好き!とかひとりで華やいだり。杜夫もユッキーもひろみん*3も笑顔で手を振ってくれたヨ!ハケるときにしんぺーさんがしんがりをとりたくなくって、ドア付近で長塚ともめてんのがすごいおかしかった。
さっき友人からパンフを借りて初めて知ったんだけど、「アナウンス:犬山イヌコ」て!ちゃんと聴いとけばよかった!それに音楽が岡崎司さん*4じゃん!あの不安を煽るようなおどろおどろSE、ホント心臓に悪かったなあ。
はあ、すごいもん見ちゃったよ。歴史に立ち会った気分。

*1:原文ママ

*2:これはさすがに直視できなかったよ。わたし犬飼ってるし…!

*3:なれなれしすぎ

*4:新感線で音楽担当の人