夜の桜

山積する仕事に後ろ髪を引かれながら、武道館に行きました。最近寝るのが毎日2時半とか3時とかで、寝たら寝たで眠りが浅く、体中を睡魔にむしばまれながらどよんとした気持ちで地下鉄の階段を上がると、一面の桜が。
忘れていました。ここは九段下、千鳥ヶ淵靖国神社。桜の名所だったんです。
生まれてこの方ずっと東京に住んでいるのに、そんなことも忘れていた。そしてこんなばっちりのタイミングにここに来たことなんか、一度だってなかった。だから、ライブに行かなさそうな人がなんでこの駅でたくさん降りるのか、本当に不思議だった。この出口を出るまで。
夜に佇む満開の桜を見上げながら、大きな玉ねぎを目指します。時間は開演5分前。でも暗い空を背後に咲き誇る薄紅の花を見ていると、どこか違う空間に連れ去られてしまうような錯覚に陥って、わたしは駆け出すことができずにいました。夜の桜には、異様な迫力があるのです。
友達同士で昼間の花見はしたことがあるけれど、夜桜の下での花見はしたことがありません。夜桜の下は、会社帰りの浮かれた大人たちでいっぱい。花を口実に飲みたいだけ、騒ぎたいだけ、どうしてそんなことが、この異様な迫力を持つ桜の下でできるのか。不思議でならないのです。もっと神聖なものであるはずなのに、なぜそんな下世話なことができるのか。桜に対して恥ずかしい気分にならないのか。そう考えてしまうわたしは、やっぱりちょっとおかしいのでしょうか。
武道館のステージに立った三人娘はちょっとだけ緊張していて、でも堂々と元気に音を鳴らして、晴れ晴れとした笑顔で手を振っていました。桜の季節にふさわしい、華やかなライブでした。彼女たちがいなければ、わたしは今年この夜桜に会うことも叶わなかった。山積する仕事に忙殺されて季節を見失っていたわたしを導いてくれた気がして、ありがたい気持ちで会場を後にしたのでした。
結局ウソをつかなかった4月1日。四月といわず年中バカなので、今日だけウソついても仕方ないですね。ウソもホントも、花も嵐も乗り越えて、おいらは強く生きていきたい。