ハト記

ハトが歩道橋をのぼっていた。
当たり前だが、一段ずつていねいにのぼるのだ。それはまだ歩き始めたばかりの幼児を思わせ、ひどく心温まる光景だった。歩道橋の階段を下りていたら、下からハトがのぼってきた。ハトの背後からは人がやってきており、その人もハトの懸命な階段のぼりを意識していたのかゆっくりゆっくりのぼってきて、わたしも目前に迫るハトを驚かせないようにそろそろと階段を下りていたのだけれど、そんな思惑も知らずわたしとその人に挟まれたハトは飛んでいってしまった。わたしとその人の視線は同時にハトを追い、「ああ…」という溜息が聞こえたような気がした。
その人もわたしと同じようにこの出来事を「今日階段をのぼるハトがいてね」なんて、どこかで話題にしていたらいいと思う。