かもめ食堂

やっとのことで「かもめ食堂」を、平日昼ののどかな恵比寿ガーデンシネマで見てきました。強靱な意志がないと逃しがちな映画ですが、今回ばかりは決心を固めた自分をホメたいと思います。よくやった。

ワケありの3人が抱えるそのワケを、誰もはっきりと明かさないところに惹かれました。ひとりできりりと生きるサチエの毎晩の日課、「最後のパーティにはわたしも招待してもらえますか」と何度も確認するミドリ、いろいろと超人的なマサコ(でもうつむいたときに伸びる影の長さ)、そしておにぎり、ショウガ焼き、鮭の塩焼き、シナモンロール……ただ単に料理が映るだけなのに、なぜこんなに涙が出そうになるんだろう。フィンランドの町並みや木立は誰も拒まず、誰も追わず、静かに彼女たちをつつみこむ。そして最後に流れる陽水の朗々とした歌声。何があっても人は食べ、眠り、そして新しい明日をはじめようとするのだ。
なんと潔く、なんと優しい映画だろう。
そして小林聡美という女優の、まっすぐに伸びた背筋に憧れる。最後のサチエの凛とした「いらっしゃい」に、ためいきをつかずにはいられなかった。