思い出せない

星も凍る夜。
なんてことを申しますが、今日はまさにそんな感じですね。冷気が足元から立ち上ってきます。
最近生活サイクルがあまりにも簡素になってまいりました。思慮深く文章をしたためる代わりに、北の国のDVDを観漁る日々。そこそこ観てしまうと今度は森に移住、「夜釣りでもするか…」とつぶやくわたしがあらわれました。
ふと我が身を振り返って、これでいいのだろうかと立ち止まるときがあります。
…や、いくない。いくないんですけど、自分が何に立ち向かうべきなのかホントのところさっぱりわからないのです。何か忘れているような気がする。しなければならないことを、忘れている気がするのです。
大事なことづてを忘れてしまったときのように、DSを開くときふいに不安になります。思い出せ。思い出すんだ。マインドBが叫びます。でも、わたしはその声を振り切って電源を入れてしまう。架空の世界に飛び込んでしまう。
そのとき、マインドBが悲しそうな顔をするのが、わたしには見えるような気がするんです。見えるような気がするんだけれど、すでに森ではもう一人のわたしが跳ね回っていて、彼女の顔は瞬時にかすんでしまう。かすんでやがてはその感覚さえも失きものになってしまうんだけれど、飲み込むには大きい塊を飲み込んでしまった後のような居心地の悪さだけはいつまでも消えずにわたしを苛むのです。
妄想が過ぎるんでしょうか。それとも、バーチャルな世界に毒されすぎたんでしょうか。
大学受験のとき、「わたしはこんなことしてる場合じゃない、文章を書くんだ、書かなきゃいけないんだ」と焦燥に駆られたことがありました。バカですね。ちょうどその頃、わたしと同世代の高校生作家が華々しく文壇デビューしたのです。今みたいに若い作家が猫も杓子もデビューする時代じゃなかったですから、それはそれはドス黒い妬みに苛まれたものでした。
なんとか大学受験をクリアして花の(…ごめん言ってみたかっただけだ)女子大生になったわたしはサークル活動に明け暮れ、すっかり文章を書くことから遠のいてしまったのでした。そのとき、わたしの中でマインドBが必死に叫んでいました。こんなことでいいのか。あんたの望む生活はこれだったのか。聞こえていました。全部、聞こえなかったふりをしていました。
あのときと同じような痛みを、今味わっています。