ドラマチック

YUKIつんのドラマチックがラジオから流れている。そうだ、この曲について書こうと思っていたことがあったんだった。
この曲を初めて聴いたのは、ハチクロのアニメお披露目会でだった。会場の照明が落ちてスクリーンに野田凪のタイトルバックが映って、イントロのストリングスが鳴った瞬間に鳥肌が立った。サビで一聴惚れをすることはあるけれど、イントロの数秒で心がぎゅっとなるなんて。歌詞のテロップもないから断片的にしか聴き取れなかったけど、ひとりで瞬き続ける星のような歌だと思った。なんて切なくて強い光を帯びた歌。
ざわざわした気持ちをずっと抱えたまま、わたしは音源化されるのをじっと待った。そして音源化が決定したころ、彼女の不幸を知った。

こわれた大切なものと いつかまたあえる日がくるかしら
残したくちづけは消えない
それぞれの場所まで もう行かなくちゃ

彼女がこの詞を書いたのは、不幸に逢うずっと前のことだと思う。主題歌だし、ハチクロというストーリーにふさわしい詞を、そういうリクエストの元に書かれたものだろうと思う。
それが今、こんなに深い意味を帯びて響く。ドラマチックという曲が、本当にドラマチックに鳴り響く。彼女の内なる叫びに聞こえてどうしようもなく胸が痛くなる。
自分の歌に背中を押されることがあるんですよ、あるアーティストはそう語った。彼女はどんな気持ちでこの曲をステージで歌っているのだろう。乗り越えていけ、と思う。ひとりの女性の在り方を、歌を通じてこんなにも感じさせてくれるアーティストは他にいない。これは共感なんて生ぬるい感情じゃない。言葉は過激に聞こえるけれど、言ってしまえば「崇拝」だ。「心酔」だ。それでいて、心理的にはすごく近い場所に彼女はいる。
bounce.comで連載中の「CDは株券ではない」*1で、菊地成孔が「1ミリずつ1ミリずつね、元気いっぱいのYUKIちゃんが、大人になって行く。いろんな事があってね。それが音にしっかりと現れてます。もう泣きそうですよ。」と語った言葉に、PCの前で首がムチウチになるくらいうなずきたい気持ちになった。もう何十回とこの曲を聴いているけれど、いつまでたっても感情が色褪せない。果てしなく広がる青空になぜか泣きそうになる瞬間、あんな気持ちがいつも訪れる。

相方氏は初めてこの歌をわたしの下手くそなカラオケで聴いて、ひとこと「切ない歌だね」と言った。「いい歌だね」と言わなかったところがいい、と思った。

*1:ちなみにこれ、本になるらしいですよお。わたしは買いますよお。