花よりもなほ

平日昼間のがらんどうな映画館で観てきましたよ。予告編はサイレントヒル(当然下を向いてやり過ごしました)以外は全部邦画だった。ゲド戦記の予告を初めて観たよ!他のよりやたら長尺の予告だったさ。あと、釣りバカの予告がバカらしくて*1笑えたー。日本沈没はなんかこれデジャブ?と思ったらまんま黄泉がえりのキャストだということに気づきました。
思いのほか長文になってしまったので、畳みます。
観た人観た人、口をそろえて「楽しかった」「よかった」と言うからそうとう期待して行ったので、観る前からかなりハードルが上がってしまっていた今回。でもそのハードル難なく越えられたよ!足引っかけてバタン!とか全然ならず、鳥のように軽やかにふんわりと飛び越えられました。結論から言ってしまえば、「楽しかった」でも「よかった」でもなく、「いとしい」映画でした。ぎゅうっと抱きしめてあげたくなるような。
物語もさることながら、本当に素晴らしいキャスティングだったと思います。とりあえず古田さん(めずらしくさん付け)の出番が多くて小躍り!おまけに着流しで小躍り!しかも水を得た魚のようなインチキキャラで、まるで舞台での芝居を観ているようでした。うん、本当によかった。ものすごくよかった。ツボなところは最後小芝居をみんなで打ってるときに笑いをこらえながら下向いてるシーンです。細かい。ああ、この調子でいくとひとりひとり書いてしまいそうでまずい。キリがないな。わたしはこの映画で加瀬くんというひとを初めてまともに観たのだけど、投げやりの中に見せる一瞬の本気にどきりとしました。夏川さんとのシーンは本当に固唾を呑んで見守ってしまった。この人が真山をやるのかと思いながら横顔を見ていたらキュンときました。びっくりした。そんな俳優さんです。香川照之がおもしろすぎる。この作品のキモと言っても過言ではないと思う!そんなに出張ってるわけじゃないのに、この作品の香川さんに真の実力を見た気がします。パンフに松尾スズキが寄稿していたのだけど、今自分の作品に日本一使ってみたい役者だそうです。うん、それはおもしろそう!ぜひ実現させていただきたい。竜ちゃん、千原兄、キム兄さんのお笑いトリオは素晴らしいアンサンブルでした。役者じゃないのにこの安定感と存在感というのは、演劇とも映像とも違う、リアクションありきの生の世界で鍛え上げられたものなんだなあとしみじみと思いました。そしてそこに古田が溶け込んでるのがとっても嬉しかった。田畑智子ちゃんはほんとうにかわゆい。怒りんぼの役なのですが、ぷりぷりという擬音を体現していてとってもキュウトでした。平泉成は出てくるだけで細かすぎて伝わらないものまねを思いだして笑ってしまう。すみません。浅野忠信は演技らしい演技というのはないんだけれど、ただそこに「いる」という存在感の醸しだし方、それがすごい。佇まいが違いますね。ああ、そして寺島さんステキです。好きです。國村さんと並んでると真下を思いだしてしまうので邪念を取り払います。あと哲司さん!哲司さん哲司さん!関西弁をしゃべる哲司さんです!出ていることをしらなかったので取り乱しました。この赤穂浪士トリオのずっこけっぷりがとってもいい味出してたなあ。宮沢りえさんはこの時代に生きていた人かと思うくらいに画面に溶け込んでいました。なんてステキ。ヒロインという言葉はこの人のためにあるのではと思うほど。
それから、岡田くんですなんといっても。今まであまり彼を役者として見てきたことがなかったんだけど(出演作をあまり見ていないし、雑誌のインタビューもあんまり読んでないからかも)、震えが来るくらいに舌を巻きました。すごい。この人の存在感ったらない。そして芝居への向き合い方が尋常じゃないことをパンフの対談によって知り、ますます震えました。いかに芝居っぽくなくその役を生きられるかというのが役者さんの課題だと思うんですが、この作品の岡田くんはその難題を軽やかにクリアしているように見えました。感情の起伏をあまりに表に出さず、自分の中だけで爆発させる役なのでなおさらのこと。そしてやはりこの人は今さら言うのもなんですけど美人さんだ。祭りで見かけた十兵衛一家を見送る岡田くんの表情が絶品です。べっぴんです。でら、べっぴんです。びっくりした。鳥肌立ちそうだったもん!
善人ばかりで歯ごたえがないとどこぞの評論家が言っていましたが、それはお門違いの感想だと思うのです。確かに作品全体のトーンは優しくてお日さまの匂いがしていい人たちばかりだけど、光が強いほど影は色濃く伸びるもの。優しい人たちがふと見せるせつなさ、世知辛さ、どうしようもなさ、そういうものがひしひしと心に刺さって仕方なかった。長屋を出ていきたいという智子ちゃんに夏川さんが言い放つ「ここを出るときはもっと不幸になるときだよ」というセリフにドキリとして、それは大団円のラストを迎えて映画館を出た後にもこだまのように鳴り響いて止みませんでした。
ああ、もう一度観たいなあ。悲恋ものだったりCGばりばりだったりホラーだったりがあふれるこの世の中に、なんと優しい風を吹かせてくれたことでしょう。そう、観た後優しくなれる映画です。もう一度観たいなあ。
こぼれ話。マスコミ試写を観に行ったお友達が教えてくれたのですが、古田さんと寺島さんが観に来ていたらしく、終演後ふたりで「面白かったね」「そうだね」と話していたそうです。出演者が面白いっていうんだから間違いない!

*1:スターウォーズのパロディ。ただハマちゃんがアハハと笑うだけで洋さんは拝めませんでした