You are the world

まだドッキリじゃないかと思っている。
ドリフの葬式コントの豪華版みたいに、式のクライマックスで棺がおもむろに開いて、スリラーに乗ってマイコーが華麗に踊り出すんじゃないかと。
でも薔薇の下からマイコーはあらわれなかった。
そのかわりにちいさな女の子がたくさんの大人に囲まれて出てきて、マイクの前でたどたどしくしゃべりはじめた。今まで顔を隠し続けてきた娘が、覚悟を決めて何十億人もの視線にさらされている。
「お父さんは生まれたときから最高のパパでした」
テロップはそう訳すけれど、なんだかもっと大切なところをカットしているような気がしてならなかった。そんな岩崎恭子が金メダル獲ったときのコメントみたいな、そんなとこ以外にももっと彼女の涙の理由が隠れている気がするのに。
そう思っていたら、日本のニュースなんてちっとも流さず番組開始から1時間半ずっとマイコー特集やってたとくダネが、彼女のスピーチの原文をひっぱってきて解説してくれたのだ。
「お父さんはみんなが思っているよりもずっと最高のパパでした」
なんでそんな、いちばん大切なところをカットしてテロップにするんだ。いちばん泣けるところをどうして日本語にしないんだ。だからこのちいさな女の子は泣いているんだ。マイコーは、とってもとってもいいパパだったんだよ。
そうしたら頭のうねうねしたデーブが言った。
「これは小さい女の子特有の英語なので、大人の作られた文章じゃないと思います」
見透かされた気がした。
実は最初見たときちょっとだけ思ってしまったのだ。もしかしたらこれは演出なんじゃないかと。パリスちゃんたら演技うまいと心のどこかで思ってしまったわたしの汚れっちまった部分を、パリンと砕かれたような気がした。
だけどわたしはやっぱりマイコーはどこかで生きているような気がしてしまう。いろんなしがらみ脱ぎ捨てて身軽になって、トランクひとつさげてどこか見知らぬ土地を旅しているのではないかと。清志郎もどこか人里離れたところで曲作りして、気が向いたら自転車で放浪しているような気がずっとしてるし、もっと言ったらひばりちゃんだって原節子みたいに隠遁してるだけかもしれない。
終わりになんかしたくないんだ。たぶん世界中がそう思っている。