おたくは滅びぬ、何度でも蘇るさ

またアニメを観る人になってしまった。
録るだけ録って観てないものも含め、今期は3月のライオン舟を編むユーリ!!! on ICE、DRIFTERS、夏目友人帳文豪ストレイドッグスクラシカロイド斉木楠雄のΨ難。えっ8本? う、そだろ……(cv小野大輔
まじかよ!!(びっくりするほど長文だよ☆
中学に入って最初の席がおたくに囲まれたため、それまでNHKのアニメ*1しか観たことがなかったわたしはあっけなく二次元の人になってしまった。まだ若かったので吸収も早く、友達にまだ見つかっていない未開拓地をを目指す意識高い系だったわたしは自ら守備範囲を広げ、そしてまわりに布教していった。おたく的なものを貸し、貸され、時にはアフレコのまねごとをし、夏や冬には海辺の町に出向き、やがては自分で申し込むようになった。
高校に入って観ていたアニメが軒並み終わり、受験もあってわたしはおたくからだんだん遠のいていった。大学デビューを目指していたので、おたくであることをひた隠しにしていた。おたくは恥ずかしいことだという概念が当たり前の時代だった。やたら絵がうまく、何本もコピックを持ち歩くサークルの後輩に「本を作っていたことがあるね?」とささやく程度にとどめていたので周囲からあやしまれることはなかった。
わたしはおたくにされた人間であるから、自然と足は洗えるはずだ。自分から好きになったものしか長続きしない性格だもの。にんげんだもの
出版社やマスコミに絞った就職活動をしていたら、ある程度までいい線はいくものの最終でボトボト落とされまくり、わたしを拾ってくれた唯一の出版社が、いわゆる同人上がりの人がよく書いている、そして中高生の頃に大好きだったマンガが連載されていた雑誌の版元だった。
編集を希望していたが配属されたのは営業で、倉庫に行くと自宅の本棚に並んでいるマンガが山のように積まれていた。高いお金で買った豪華な画集もあった。某声優の写真集もあった。書店にBL棚というものが設置され始めた頃で、弊社はその一角を大いに担う版元であった。
足を洗ったつもりなのに、なぜわたしはここにいるのだろう。
気がつけばわたしにおたくを教えてくれた友達は軒並み足を洗い始めていた。しかしわたしはジャンルを変えつつもおたくを続け、再び夏や冬に海辺の町へ行く生活を送っていた。二次元から三次元へと興味の対象はゆるやかに移り変わっていたけれど、おたくという根源的な資質からは逃れられなかった。何かにはまれば本を出したい、同好の志と語り合いたい、にやにやしたい、その欲望は息絶えることがなかった。
ジャニーズにはまってからは別の意味でのおたくになってやがてわたしは海辺の町を必要としなくなり、深夜アニメが乱立するようになる頃には二次元からもすっかり足が遠のいたのだが、いつの間にかもうすっかりおたくを公言しても恥ずかしくない世の中になっていた。わたしはその風潮が今でも居心地悪く、大々的に特集を組まれたりおたくがクローズアップされるとうつむきがちになってしまう。昔、海辺の町でテレビカメラを発見したとき、大手の列に並びながらカタログで顔を隠したことを今でも鮮明に覚えている。
そんなこんなでちっともアニメを観ない人間になっていたのだけど、あまりにも評判になっていたのでまどマギだけは後追いで観た。あまりのビジュアルに挫折しかけたけれど、とりあえず3話まで耐えたらあとは坂を転がり落ちるようにはまってしまった。一番くじでフィギュアをそろえてテレビの前に飾ったりした。これがおたくから足を洗えていない証拠だ。
それは今の夫とつきあい始めたばかりの頃だったのだけど、「観てほしいものがあるの!アニメだけどすごい深いの!」と言って、ジブリさえ紅の豚しか観たことのない、まったくアニメに耐性のない彼にまどマギのDVDを彼に貸していたのである。今思えば好意を盾にひどい暴力をふるったものだと思う。これこそまわりが見えていないおたくの代表的な行動だ。それにしてもあんな萌え絵アニメをよく夫は観てくれたものだよ。振られてもおかしくなかった。優しさなのかほんとうに楽しめたのか真相は闇の中だが、夫は嫌な顔ひとつすることなくそれを受け入れ、やがて劇場版が公開されると当然のように一緒に観に行ってくれた。
脚本がまどマギ虚淵だから、とそれまで踏み入れたことのない特撮という沼に近づいたら、オレンジやらバナナやらメロンやら果物がいっぱい出てきて面白かったので夫と一緒に観るようになった。最初は冷やかしだったのだが、新感線の吉田メタルさんが出ていたり数々の大根たちがぐんぐんうまくなっていくという成長物語でもあることに感銘を受け、結局ファイナルステージのライブビューイングに行った。メロンの中の人のディナーショーにも行った。その次のドライブには激ハマりしたので、六本木ヒルズのイベントやファイナルステージにも行った。すべて夫同伴だ。
こうやって書いてみるとあらためて夫の懐の広さに感嘆する。
別にどれも嫌々ながらついてきてくれてるわけではない。受け身ながらもそれなりに積極的に楽しんでいる。「行く?」と言えば躊躇なく「行く」と答える。
やがてわたしはおそ松にはまり、これなら大丈夫かもと思って夫におそるおそる見せたら彼は「あの話もっかい観たい」と言うようになり、六つ子の消しゴムはんこを作ってくれるまでになった。そうなるとわたしはブレーキのかけ方がわからない。「フェス松さん申し込もうと思うんだけど、当たったら行く?」「行く」「声優が出るイベントだから面倒なおたくいっぱい来ると思うけど大丈夫?」「いいよ」こんだけ念押ししたから大丈夫だろう、しかし当日のカラーギャング大集合やアニメの絵に熱狂する若い子たちという尋常じゃない光景にわたしのほうが怯えていたら、夫のほうがむしろ堂々としており、しかもイベントを大変楽しんだようだった。「でも声優の即興コントはいらなかったなー」そうだね、もうあれは役を離れていたからね……声優おたく向けのコンテンツだからね……と謎のフォローをするぴよまるであった。
夫はおたくではない。スターウォーズスタートレックは好きでDVDも持っているけれど、グッズを集めたり何度も観に行ったりはしない。シンゴジラも楽しんでいたけどわたしみたいに5回も観に行ったりはしない。「面白かった!」でスパンと終われる人なのだ。とてもうらやましい。
おそ松のおかげでわたしは声優のラジオを聴くまでに墜ちてしまったのだけど、夫は掘り下げることはしないし、わたしが録り溜めたアニメをただ一緒に笑って観ている。もちろん今クールだったらユーリはぴよ倫が働いて一緒には観ない選択をしているけれど、坂本ですが?が大好きだった夫は斉木楠雄が好きだし、なんならたまに燃堂のものまねをするし、3月のライオン舟を編む夏目友人帳あたりは一緒に観ている。それにスーパーヒーロータイム真田丸が加わるので消化しなきゃいけない録画がたくさん……ていうか夫がこんな人になってしまったよ! 文字にしてあらためて責任を感じる! まわりの人と話題が合うかしら! しんぱい!(おたくじゃないので大丈夫
夫が寛容なのとツイッターが優しいせいでわたしの二次元出戻り事件が許されている感じがするのだけど、こないだはっと我に返るできごとがあった。
ひさしぶりに会った小学校の同級生が家に遊びに来たとき、トイレに並んでいるよつばと&動物のフィギュアを見て「ねえあれダンナの趣味?」とちょっと半笑いで訊かれたのだ。いまだにその言葉が胸にずしりと重くのしかかっている。
そうだよなー、トイレだからなんか許される気がして置いてるけど、この歳でこの趣味って普通の人からしたらやっぱりマイノリティだよなー、そして誤解された夫よすまない……。
わたしだってそりゃ北欧スタイルのインテリアとかこだわって厳選されたかわいいものだけで構成されてる部屋とかが理想なんだ! だけどたまにどうしてもあらがえず買っちゃうんだ! 飾り棚の上にちんまりと置かれてる六つ子に気づかれなくてよかったよ!!
年相応とはいったいなにかね、とじっと手を見ることが増えた。ツイッターを開けば名前も年齢も知らない同好の志がいっぱいいるから、自分も大丈夫な気がしてしまう。でもまわりを見渡せばあの頃わたしを沼に突き落とした人たちは、軒並み沼から這い上がってきれいな足で白い床を歩いている。
ねえ初めて2.5次元舞台観てきちゃった、パトレイバーの新作短編がすごくて、もうそんな話を同じ熱量でできる人は身近にいないし、でももしできたとしてもまた新たな沼に飛び込むだけだからいないほうがいいのか……と思いつつ、やっぱり胸のうちにくすぶる思いを踏みつぶすことができずに持て余してしまうのだ。いくら昔おたくだったとしても今のアニメの話をまくし立てられたら戸惑うと思うし、実際昔のおたく仲間に「どれが何松かわかんない、全部同じ顔じゃん」と言い放たれたときの衝撃はいまだに忘れられない。そうだよね、それが普通だよね! でも普通ってなんだ? わたしだって普通だよ! 今10代だったら絶対この人のファンになってるんだろうな*2って少し寂しく思いながらこっそり声優のラジオ聴いたりツイッター見たりしてるよ! ちゃんとわきまえてるよちくしょう! 今は声優のラジオとかいっぱいやってていいよなー。昔はほとんど露出がなかったから、ノイズだらけの東海ラジオを受信しようと携帯ラジオ持って右往左往してたんだぜ……。
おたくとは自分のアイデンティティと向き合う生き方である、とわたしは思う。特に趣味もない一般人よりもよっぽど自分について考えてるよ!と謎の逆ギレをして、特にオチもなくこの記事は終わろうとしている。要するに「夫すごいな」「おそ松の2.5次元舞台ちょう楽しくてアイデンティティが揺らいだ」「パトの新作最高すぎて泣いた」ということをお伝えしたかっただけです。後者2点については別項で書くぜ!ドロン!

*1:走れジョリー、スプーンおばさん未来少年コナン

*2:25歳の若さでストラヴィンスキーを愛聴し、カラオケの十八番が「また逢う日まで」、尊敬する人が杉原千畝という低音ボイスの若手声優がいるんですよ奥さん